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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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大学も品質管理していないと言われて

2017年12月1日

朝刊の一面に三菱マテリアルの子会社が一部製品の検査データを改ざんしていたという記事を見て落ち込みました。私が大学を卒業した1959年はまだ日本は貧しく、よい物をつくって日常を豊かにし、心豊かな暮らしやすい社会をつくろうと多くの人が思っていました。会社も皆んなが気持を揃えてよいものづくりに励む場でした。東芝、神戸製鋼、日産自動車、三菱系の会社・・・どれも友人が夢を持って入社した会社で、事実みんなよい仕事、よい会社づくりをしてきたと思います。それが毎日のようにそれらの会社での不祥事が報道されるのですから、落ち込むほかありません。

とてもイヤな社会になったと思うからです。人間を大切にし、人間を基本に考えない社会になっています。競争、短期間での成果・・・本当に大切なことを切り捨てています。そんな思いで会議に出かけました。お隣が野依良治先生。始まるまでの時間に“落ち込んでます”ともらしましたら、“本当に困ったものだ。”と同じ気持を語って下さった後で、“大学も品質管理ができていないのにこちらは問題になってない”とおっしゃるのです。“学生を立派な製品に仕上げて出してませんよ”と。“厳しい点をつけると就職できなくなるからと、CをつけたくてもAをつけなければならないし。Aの方が学生も企業も喜こぶでしょう。”学生を品物のように見ているわけではありません。納得のいく教育ができないことを嘆いていらっしゃるのです。

確かに。競争、競争と言っているためによい方向に行かない。よいものを目指すのは当然で、そのための努力は必要ですけれど、どこか間違っている今の競争は考え直さないと物も人も質が落ちてしまう。ギリギリのところに来ているような気がします。

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