モーター分子がはたらいている現場は、私たちが独自に開発した急速凍結法という電子顕微鏡の技術を使えば実際に見ることができる。この方法は、細胞内の動的現象を瞬間的に凍らせ、たんぱく質などの生体分子を1個ずつ見えるようにできるという画期的なものである。
この方法で神経の繊維の断面を見ると、シナプス小胞のもととなる膜小胞や、それに比べると大きなミトコンドリアが微小管のレールの上に乗っており、その間をモーターたんぱく質が支えているのが、まるで手にとるように見える。しかも、よく見ると、これらの写真の場合、丸い小胞のモーターにはレールの上の足が2本あるのに、ミトコンドリアには、足が1本しかない。
二本足のモーターは、キネシンと呼ばれるものである。キネシンは、アミノ酸が約1000個つながった大きなたんぱく質(重鎖)が2本と、アミノ酸約500個がつながった小さなたんぱく質(軽鎖)2本が集まってできた複合分子であり、球状の部分を2つもつ。私たちは、キネシンの分子構造と、キネシンが重鎖の端にある球状の部分で微小管に接し、軽鎖のついた反対の端で膜小胞と結合しているという事実を明らかにした。
当初二本足のキネシンは、微小管の上で、2本足のうちどちらか一方で必ず微小管をつかまえ、もう一方の足の接する位置を変えながら動いていくのだと考えられていた。しかし、一本足のモーターが発見され、その動きは同じ理屈では説明できないことになった。
複数の一本足モーターが、微小管と運ばれる荷物を同時につなぎ、どれかが微小管から離れても、他のモーターが支えているという可能性が1つ。あるいは、個々のモーターが、微小管からほとんど離れず、一瞬のうちに接触位置を変えることで、単独で荷物を運んでいる可能性も考えられている。
どちらが正しいかは今調べているが、もし2つ目の可能性が正しいならば、生体分子の化学的・物理的反応の仕組みを、根本的に見直さなければならないだろう。
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キネシンモーターの構造
二本足モーターをして最初に見つかったキネシンは、大きな長いたんぱく質分子2本と小さな分子2本からなる複合体である。全長約80ナノメーターで、一端にある2つの球状の足が微小管に接し、もう一方の端は扇型で膜小胞に結合する(模式図)。キネシンモーターの構造は、低角度回転蒸着法という方法で多数の写真を撮ることでわかってきた(写真)。 |
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キネシンモーターの動きのモデル
キネシンモーターは、丸い球状の部分で微小管のレールに接し、反対側の端で荷物となる小胞に結合している。球状の部分が、交互に動くことでレールの上をまるで歩くように移動すると考えられている。 |
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