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Special Story

生命をささえる運び屋分子

細胞を動かすしくみを探る:祐村恵彦

われわれの体をつくる細胞も野外にいるアメーバも、速度はさまざまですが形を変えながら動いて他の場所に移動したりします。たとえば、白血球は炎症患部に速やかに集まってきます。細胞を動かすしくみはどのようになっているのでしょうか。

細胞内には無数の繊維が張り巡らされていて、細胞を内から支えています。繊維は1種類ではなく、いろいろな太さのものがあります。その中で、細胞を動かすことにかかわっている太さ6ナノメーターの繊維は、われわれの筋肉の中にもあるアクチンというたんぱく質からできています。アクチンは筋肉内でも繊維を形成しており、ミオシンというたんぱく質とともに筋肉の収縮にたずさわっています。

細胞性粘菌アメーバの運動にも、アクチンやミオシンがはたらいています。アメーバ内に張り巡らされたアクチンとミオシンの繊維構造は、まさにアメーバの筋肉(研究者はこれをcytoskelton<細胞骨格>と呼んでいます。細胞の骨ですね)といえるかもしれません。

ところで、筋肉とアメーバには大きな違いがあります。それは、筋肉細胞内では、繊維は非常に整った配列をとっているのに対し、アメーバ内では、そのような配列がほとんどないということです。さらに、アメーバ内では、繊維は伸びたり縮んだり、そきには、切断されたりして、一定の長さではいません。しかし、こうしたことが無秩序に起こったのでは、細胞は動くことはできないでしょう。

細胞性粘菌は、走化性といって特定の化学物質に引きつけられて動くという性質をもっています。その物質を細いガラス管に入れ、細胞に近づけると、細胞は仮足と呼ばれる突起を伸ばしてガラス管のほうに移動を始めます(写真1)。このときのアクチン繊維の様子を蛍光顕微鏡で観察すると、仮足に多量のアクチン繊維が観察されます(写真2)。

 

(写真1) 動く粘菌アメーバ

細いガラスのピペットを左から近づけ、サイクリックAMPという物質を出してやると、粘菌が引き寄せられて動き出す。

細胞は、ガラス管から出る物質の方向を感知し、その近くの細胞内でそれまでばらばらでいたアクチン分子が繊維化し、さらにより合わさって網目構造をつくり仮足を伸ばしていくのです。さらに、ガラス管と反対側ではミオシン繊維が集合し、細胞尾部を収縮させて細胞質を前に押し出す力を生み出しています(写真3)。こうした、細胞内の繊維の分布の偏りと協調が細胞の運動に必要な力を生み出し、さらに運動方向を制御しています。

ガラス管に近い細胞膜上のレセプターで化学物質を感知した後、そのような細胞内情報伝達を経て、アクチンやミオシンの偏りが制御されているのかが、現在の最大の関心事です。
 

粘菌アメーバの中のアクチン繊維(写真=祐村恵彦)

(上:写真2)

動いている粘菌の先端部分には仮足ができ、中にはアクチンの繊維が網目状の構造を作っている。

 

(下:写真3) 

後方には、束になったアクチン繊維とミオシンが一緒になって細胞全体を押し出す力を生み出す。

(ゆうむら・しげひこ/山口大学理学部助教授)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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