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SYMPOSIUM 生命誌から生命科学の明日を拓く

オンラインで語り合う 〜質問タイムより〜

双方向オンラインライブ配信で行われたシンポジウムには、
全国各地から高校生の皆さんが参加し、たくさんの質問が寄せられました。
その中から6つを取り上げ、当日の基調講演と鼎談に続く質問タイムで、3人の演者に回答をいただきました。

Q1

例えば、筋肉細胞などをつくって強化された人間が出てくると、オリンピックなども僕はつまらなくなってしまうと思いますが、そのようなiPS細胞の利用に関わる生命倫理についてご意見をお願いします。

山中

今、新しい技術が登場し、魚や牛など動物の筋肉を増やすことも可能になっています。
ゲノム編集も理論上はヒトにも応用可能ですから、今後こうした技術の利用を制限する規則ができてくると思います。スポーツ競技では、薬物で筋肉増強を図るなどの行為はドーピングとして厳しく禁じられています。遺伝子操作による同様の行為もドーピングとして規制されると思います。スポーツも科学も、皆がフェアに競い合うことが大切です。

Q2

研究には新しいものを生み出す研究と、一つのことを追求する研究があると思いますが、どちらの研究を大切にしていますか?

永田

研究は、まず自分が何を知りたいかで、二つに分けて考えることは難しいですね。
私の場合は、細胞の中でタンパク質がきちんと働くにはどのような状態が必要かを知りたくて研究を続けてきました。タンパク質は壊れやすく、例えばパーキンソン病やALSなどの神経変性疾患も変性したタンパク質が原因で生じます。細胞には、壊れてしまったタンパク質を適切に処理する機構があるはずで、それがどのようなものかと調べていて、思いがけず新しいタンパク質が見つかる。というように、知りたいことを探求するその過程で予想外の発見がある。そのような発見が、一生のうちに幾つかあるのはラッキーなことですけれど、やはり、自分の知りたいことを追い求めるのが研究者の基本姿勢だと思います。

山中

僕は、研究には直線型と回旋型があると思います。
僕が尊敬する永田先生は直線型だと思います。
体の中でタンパク質がどのようにでき、どのように壊れるか。「タンパク質の一生」を明らかにするという太いテーマが生涯を通してある。ところが僕の場合は一貫したテーマはなく、実験して予想外の結果が出ると、それに引っ張られて新しいこと始めてしまう…コロコロやることが変わる回旋型でここまで来ました。
最近はiPS細胞一直線に見えますが、そのうち変わるかもしれません。日本は、研究も人生も直線型が多く、アメリカは両方。どちらがよいかは人それぞれで、僕は落ち着きがないタイプという風に思います。

永田

僕も、一つのことだけではしんどくて、いろいろ目移りもしますし、寄り道から思いがけない発見があります。そういう意味では、直線型と回旋、あるいは寄り道型が一人の中で同居してるわけで、あまり型としては決めつけないほうがいいと思います。

山中

どんどん興味あることをやったらいいですね。

Q3

先生が生命科学の研究を始められたきっかけは何でしょうか?

中村

もう60年以上も前のことですが、当時は生命科学という学科はなく、私は生化学を選択しました。大学1年で『Dynamic Aspects of Biochemistry』という本に出会い、当時わかり始めたクエン酸回路(TCAサイクル)について仲間と議論しているうちに、試験管の中より生きものの中のほうが面白いと思うようになりました。
DNA二重らせんの存在を教えていただいたのは私が大学3年の時で、こんなものが体の中で働いているのかと驚き、もっと体の中の化学をやりたいと思いました。当時、分子生物学の創始者の一人であるデルブリュックの元で学び、アメリカから日本へ戻ったばかりの渡辺格先生が大学にいらしたので訪ねましたら、とても面白い人柄で、この先生に教えていただきたいと思いました。やはり出会いが大切ですね。その頃、いわゆる就職に有利なのは化学で、先行きの見えないDNAを選択するなんて、仲間からはやめたほうがいいと言われましたが、今、振り返ってこの選択は間違っていなかったと思います。何かを決める時、流行や周囲の意見よりも、本当に自分がやりたいかどうかで選んで欲しい。それが失敗でも自分の責任だと納得できますから。皆さんも一つ一つの出会いを大切に、面白いと思うことを選んで、自分の道を決めていただきたいと思います。

Q4

生物は進化していくと思いますが、今後、人類はどのように進化していくと思いますか?

永田

それは「わかりません」というのが最初の答えですね。
進化とは何万年、何十万年という時間を扱う問題で、そのような未来を確かめる術はありません。種の進化とは、常に環境との関わりの中で決まっていくものです。今後、地球環境がどうなるかによって、ヒトの様相も変わってくると思います。滅びてしまう未来もその一つだし、今のままではその可能が強いと思いますね。その他、ユヴァル・ノア・ハラリという歴史学者に『サピエンス全史』『ホモ・デウス』という著書があり、ES細胞やiPS細胞、ゲノム編集などの技術を利用し、人間が人間の操作を始めることに警鐘を鳴らしています。私の答えとしても、それは非常に危険だということだけは言っておきたいと思います。

Q5

高校生のときの経験が今に生きていると思うことがありますか?

中村

私の母校はお茶の水女子大学附属高校です。
この高校で今に生きていると思うことが二つあります。
一つは、当時の校風で競争がまったく無く、皆で楽しく過ごしたことです。競争が無いと言うと怠けているように聞こえるかもしれません。でもそうではなく、例えば、今、私が好きな高校生の一人に藤井聡太君がいます。彼は競争していません。 一局、終わった時に語る彼の言葉を聞いてください。今回、ここがまずかったとか、次はこうしたいとか、一番いい将棋を打てる人になりたいという気持ちがよく伝わってきます。私も、本当に自分が大事だと思うことをしっかりやることが大事だと思っていますが、それを教えてもらったのが高等学校でした。
それから二つ目は、よい先生方に巡り会えたこと。今でもクラス会の時に、当時教えていただいたことを語り合っています。今の私の中でもそれは大事なことです。多分、皆さんそれぞれの高校に、よい所がたくさんあると思いますので、それを生かして、ああ、あの時よかったなと言いながら高校時代を思い出せる大人になって欲しいと思います。

Q6

未来の科学者にどんなことを期待しますか?

山中

皆さんの中からたくさんの人が科学者になってくれることを望んでいます。
鼎談でも少し触れましたが、科学は進んでいるように見えて、身近なことでもできないことが山ほどあります。ぜひそれを克服していって欲しい。10年後、20年後には、きっといろいろな手掛かり、解決の手段があると思います。世の中をよりよい世界に変えていって欲しい。よろしくお願いします。

この記事は、2020年9月12日(土)に開催したJT生命誌研究館(BRH)・京都大学iPS細胞研究所(CiRA)共催シンポジウム「生命誌から生命科学の明日を拓く」の内容から抜粋し、季刊「生命誌」の記事として編集部でまとめたものです。