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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2022.10.04

もしかしたら農業科が広がるかも

美唄に行って、市長さん、教育委員長さんとお話をしました。これまで、この組み合わせでお話し合いをしたことがあるのは喜多方市です。このコラムでも何度もお話ししてきましたし、映画『風と水と生きものと』に子どもたちと一緒にとうもろこしを食べる場面がありましたので、とうに御存知の方もいらっしゃると思いますが、喜多方では私の願いを聞き届けて下さって、小学校で「農業科」を続けています。子どもたちは一年間自分の作物に責任をもって過ごすことで、生きものが生きるとはどういうことかがよく見えるようになります。そこでは、作物とはもちろん周囲の大人との関係も見事に出来上がり、その関係が子どもを育てていくのがよく分かります。子どもたちはまず、作物づくりを指導して下さる地域のお年寄りの自然に関する知識と作物を育てる能力に圧倒され、尊敬し、教えを乞うようになります。植物も人間も生きものですから、ここには時間と関係という生命誌のテーマが、具体的な形でみごとに表れます。

これが他の地域にも広がるとよいのだけれどとずっと思ってきたのですが、これがとても難しい。教育委員会は各地方自治体にありますが、首長からは独立しています。教育は、政治からは離れて独自性を保つ必要があるからです。でも国の教育制度には縛られていますし、文科省の方針には従っていますので、各教育委員会がよいと思ったから何でもできるわけではありません。というより、国全体の方針に縛られて自由な動きをするのが難しい場合が少なくありません。

ですから、農学科作りは難しいのです。いろいろな市や町が関心を持って下さっても、なかなか実施まで行きません。美唄は、北海道のこれからを考えると「農と食」が重要になるので、子どもたちがそれに関心を持ち、自分のこととして考えて欲しいと思い、喜多方市の活動に学ぼうとしました。喜多方の教育委員会と交流し、美唄に合った方法を試み始めたと話して下さいました。まだまだこれからですが、子どもたちと地域を大切に思う気持ちが伝わってくる会合に参加し、本当に気持ちのよい時をもちました。

これからの社会を考える時一番大切なことは、「誰もが毎日食事を楽しめること」だと思います。今の日本はこの当たり前のことができなくなっています。子ども食堂が必要になるとは思ってもいませんでした。どこか間違っています。「食と農」の先には、平和であること、気候が安定していること、生きものたちが元気でいることなどなど、生命誌のテーマが次々出てきます。いつか美唄を訪ね、よい成果を見せていただくのを楽しみにしています。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶