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研究館より

表現スタッフ日記

2023.10.17

RNAにノーベル賞

昨年もノーベル賞のシーズンに順番がまわってきましたが、今年も先日発表があり、大本命といえるRNAワクチンの技術的基盤を築いたカリコー・カタリンさん(ハンガリーは姓名の順に書くそうです)とドリュー・ワイスマンさんが受賞されました。

受賞の理由は、COVID-19に対する効果的なmRNAワクチンの開発を可能にした塩基修飾に関する発見に対して。ワクチンを実際に実用化したのではありませんが(桂子先生のちょっと一言をご参考ください)、この前提なくしてmRNAワクチンは実現しなかったという発見です。RNAの修飾塩基の研究は、少し地味な分野ですが、学生時代からmRNAを専門としていらしたということで、続けてこられたことにまさに時代が追いつき、1番必要な時にピタリと会ったということでしょう。

RNAは、細胞の中にも外にもさまざまな形で存在します。細胞自身のゲノムDNAから転写されたRNAは、核から細胞質へ。メッセンジャーRNA(mRNA)はさまざまなタンパク質をコードする主役です。最近の技術の発展により、細胞ひとつの中に、どのようなmRNAが何コピーあるのかも解析できるようになりました。タンパク質への翻訳には、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)と非コードRNAのはたらきも欠かせません。RNAは、ゲノムのはたらきを実現する役者です。

細胞の外のRNAには、細胞自身が他の細胞に情報を伝える役目もみつかっていますが、外からやってくる代表といえばウイルスで、COVID-19もその1つです。ウイルスは細胞に感染して入り込むと、自らのゲノムであるRNAを細胞質に放出して、感染した細胞がもつtRNAやrRNAを使ってタンパク質を合成し、ウイルス粒子を再生して、増殖し、最終的には細胞を壊して別な細胞へ感染します。しかし、細胞も黙って感染されるだけではありません。Toll様レセプターという自分のものではないRNAやDNAを検知するしくみがあり、感染した細胞は炎症を起こして警報を発するのです。したがって、ワクチンとして外から入れるRNAも警戒されるのは当然です。

カリコーさんの発見は、RNAのウリジン塩基を少し改変した修飾塩基にすることで、炎症を起こさずに外からのRNAを取り込むことができ、キャップ修飾を頭につけると翻訳もうまくいくということです。RNAは、AUGCの塩基のつながりですが、ただの並びだけではなく、細胞はどこからきたどんな姿の何者かも見分けていたのです。シュードウリジンは、tRNAなどには使われているおなじみの塩基で、キャップも真核生物のmRNAにはお約束の構造です。mRNAはコードするタンパク質の構造に興味が行きがちで、mRNAという分子の性質には、あまり目が向けられていなかったのかもしれません。

RNAの研究は急速に進んでおり、RNAの種類もmRNA、tRNA、rRNAだけではなく、短いものから長いものまで、さまざまなRNAがはたらきをもっていることがわかってきました。一昨年のノーベル賞の対象のゲノム編集にもRNAが活躍しています。そんな時代だからこそ、基本中の基本のmRNAの活躍が輝くのでしょう。まだまだ、RNAから目が離せません。

平川美夏 (全館活動チーフ)

表現を通して生きものを考えるセクター