表現スタッフ日記
2026.09.01
ヤエヤマトガリナナフシその4〜単為生殖ができない?
初回の記述にも触れましたが、ナナフシの仲間にはメスだけで卵を産んで子孫を残す単為生殖ができる種が多いです。日本ではもっとも一般的に知られるナナフシモドキ(Ramulus mikado)(単にナナフシとも呼ばれる)やトゲナナフシ(Neohirasea japonica)が代表的なもので、野外で見つかる成虫のほとんどはメスであり、オスは極めて稀です。最近、Nozakiら(2025)の研究によると、ナナフシモドキのオスは、形態的・(交尾)行動的には正常である一方、正常な精子を作ることができず、交配したメスが産んだ卵から孵化した子どもの遺伝子型にはオス由来の遺伝子は全く検出されないそうです。また、メスでは精子を貯蔵する器官が退化していることも確認されています。つまり、ナナフシモドキという種は、オスがまだ稀に見つかりますが、有性生殖の機能はもう完全に(不可逆的に)失っているのです。Nozaki et al., Ecology, 106: e4522(2025)をご参照ください。
一方、ヤエヤマトガリナナフシは有性生殖の種として知られていますが、単為生殖はできるのでしょうか。そこで、メスだけで飼育し、卵が産まれるのか?産まれるとしたら、その卵(未受精卵)から幼虫が孵化して正常に成長できるのかを調べてみました。2024年12月18日から2025年1月1日までの間に孵化した複数の個体を飼育に用いました。雌雄の区別ができるようになった頃の3月29日に、4頭のメスだけを同じ容器に移して飼育し、産卵状況を観察しました。この4頭のメスは5月20日から卵を産み始め、7月初めまでの約1ヶ月半にわたり、合計144個の未受精卵(図1)を産みました。前回の日記に書いたように、ヤエヤマトガリナナフシのメス個体が通常100個以上の卵を産みますので、それと比べたら今回の4個体が産んだ卵の数は少ないと言えるのでしょう。ただし、4頭のうち、5月30日に1頭、6月17日に2頭がそれぞれ早めに(これまでに観察された交配個体の産卵期間と比較した場合)死亡していたため、単純に合計数を4で割ることができないのも事実です。交配個体と未交配個体の産卵数の比較を最初から考えていなかったので、手間を減らすために、4個体をまとめて飼育していましたが、個体ごとに飼育していたらデータの使い道も増えたなと反省しております。
図1
ヤエヤマトガリナナフシの未受精卵。
ヤエヤマトガリナナフシのメスは、交配しなくても産卵できることが判明しましたが、その未受精卵はちゃんと孵化するのでしょうか。受精卵の場合、産卵してからおよそ1ヶ月半から2ヶ月の間に孵化すると前回の日記で報告しましたが、今回得られた144個の未受精卵は、産卵後2ヶ月経っても、孵化した卵は一つもありませんでした。その後、観察し続けたところ、最終的に144個の卵のうち、4個の卵が不完全孵化(卵殻から胴体が出るが脚が完全に出られず死亡)したことが確認されました(図2)。いずれの個体も孵化したのちに死亡しましたが、図2dの個体は脚を含めほぼ完全に卵の殻から脱出することに成功していました。今回の調査結果に基づけば、ヤエヤマトガリナナフシは現状、基本的に単為生殖ができないと結論づけて妥当でありましょう。ただし、その一方で、わずかな頻度ではありますが、ほぼ孵化できた個体も確認されたことから、将来的な単為生殖の潜在能力を有していることも示唆されています。孵化後に死亡した個体と孵化しなかった未受精卵の染色体の構成に違いがあるのかは知りたいですね。
次回は改めて脚の再生の観察結果を報告したいと思います。

図2
ヤエヤマトガリナナフシの未受精卵の不完全孵化。a, 5月20日―5月28日に産まれた30個の卵から、8月1日に孵化した1個体;b, 5月30日―6月4日に産まれた26個の卵から、9月3日に孵化した1個体;c, 6月5日―6月10日に産まれた30個の卵から、9月24日に孵化した1個体;d, 6月20日―7月3日に産まれた15個の卵から、9月24日に孵化した1個体。いずれの個体も孵化後に死亡。


蘇 智慧 (研究員)
表現を通して生きものを考えるセクター