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研究館より

ラボ日記

2022.08.18

自分という生き物の不思議さに思いを馳せて

 私が本格的に生物学に興味を持った高校生の頃、とても不思議で面白いと思ったことの1つが「自分」という生きものの存在でした。自分自身も生物であるから細胞の集合体であって、1つの受精卵からなにやら複雑な細胞内の反応や発生過程を経て自分という外形を作って誕生してきた訳です。しかし、そんな複雑な事象をこなして産まれてきた私たちは、私たちが産まれるまでの間にいったい何が起きていたのかさっぱり分かりません。結局のところ、私たちヒトは原子がどうだ宇宙がどうだと未知なるものを壮大に語りますが、自分自身という存在が最も身近な未知なる存在なのだと思ったのです。(高校生の時分だったので、少々生意気な言い回しですがご容赦下さい。。。)

 実際に発生生物学をきちんと学んでみると、哺乳類の胚は胚盤胞と呼ばれる時点で胎盤を作る細胞と身体を作る細胞に役割分担されていたり、JAK-STAT, FGF-ERK, Wnt-βcatenin, Delta-Notch, TGFβ-Smadといった分子を使った細胞同士の情報コミュニケーションが行われていたりと私たちの想像以上に精巧に生きものが形作られていると感じます。
 そんな折、この7/16から本研究館での企画展示「生まれるまでの時間」が始まりました。私も研究の休憩時間を使って、3階の研究フロアから1階の展示フロアに降りて展示を見ています。本展示では「卵割」や「胎盤と身体を作る細胞の分かれ方」、「分節時計と体内時計」、「遺伝子発現と形作りの相互作用」などの発生における様々なトピックが紹介されています。今回の展示で私が個人的に印象深かったものが、各解説パネルの横に設置されている「生きた細胞や胚を蛍光で光らせて観察するライブイメージング映像」です。特に、近畿大学の山縣一夫先生が提供して下さった卵割の蛍光映像では、生きている受精卵で2つの前核から染色体が形成され分かれていく様子も非常にキレイに鮮明に観察することができ、ここから新しい生命が始まるという不思議さと共に近年のライブイメージング技術の進歩に対する驚きを感じられます。私が研究しているプラナリアでは遺伝子組み換えが成功していないためライブイメージングが出来ませんが、いつかはプラナリアでもこのようなキレイな生命現象を捉えることに成功したいものです。皆様も、この夏は自分という未知の存在の不思議さに思いを馳せてみるのも面白いのではないでしょうか?
 

佐藤勇輝 (奨励研究員)

所属: 形態形成研究室

プラナリアを用いた成体多能性幹細胞の研究をしています。