1. トップ
  2. 語り合う
  3. 研究館より
  4. 沖縄のイヌビワコバチは休眠できるのか

研究館より

ラボ日記

2023.04.04

沖縄のイヌビワコバチは休眠できるのか

イチジク属の植物は熱帯・亜年帯を中心に生育しており、一年を通してライフサイクルを回しています。イチジク植物の唯一の送粉者(花粉を運んで受粉を行う)であるイチジクコバチ(送粉コバチ)は、イチジク植物の花嚢の中で育ちますので、そのライフサイクルはイチジク植物に合わせていると思われます。
 

イチジク属の1種であるイヌビワは、中国南部から台湾、琉球列島、関東地域にかけて分布しており、温帯まで分布域を拡大した、数少ないイチジク属の植物です。温帯に生育するイヌビワは、気温の低い冬を乗り越えるために、花嚢(花)を休眠させる機能を獲得しています。図1はBRHの食草園にいるイヌビワの冬の様子、完全に落葉していますが、花嚢はそのまま枝に残っています。その花嚢は成長がとまった休眠状態になっており、翌年の4月頃までその状態を維持しています。花嚢の中にはイヌビワの送受粉を担うイヌビワコバチが育っていますが、そのコバチは恐らく幼虫の状態で、花嚢とともに休眠していると思われます。

一方、南西諸島に生育するイヌビワは休眠しません。当然ながらそこにいるイヌビワコバチも休眠しないのです。南西諸島に生息している、休眠しないイヌビワコバチは、本州に生育しているイヌビワの花嚢に入ることができるでしょうか。そして、花嚢の中に産卵して、孵化した幼虫が花嚢とともに休眠して冬を乗り越えることができるでしょうか。イチジクとイチジクコバチの研究を始めた初期から持ち続けてきた疑問ですが、昨年ようやく、その疑問を検証する実験を実施することができました。南西諸島からイヌビワの花嚢を持ち帰り、その花嚢から出てきたコバチを食草園にいるイヌビワの花嚢に置き、花嚢に入ることが観察されました。しかし、その後、多くの花嚢が落ちてしまい、現在(3月末)残っているのは3花嚢のみとなりました。果たしてこれら3花嚢からコバチが出てくるでしょうか。4月末から5月はじめ頃には、結果を明らかにすることができると思います。ちなみに、これらの操作実験は、コバチが絶対に逃げることがないように、花嚢に袋掛けするなど厳重な条件下で行っています。

図1.BRHの食草園にいるイヌビワの冬の様子


5月の「生命誌の日」(5月20日・土)は、当研究室の主催で、「実験・体験・ラボ見学:イチジクコバチの顕微鏡観察と花選好性実験を体験してみよう」が実施されます。食草園のイヌビワとそのコバチの観察もできます。ご興味がありましたら是非ご参加下さい。

蘇 智慧 (室長(〜2024/03))

所属: 系統進化研究室

カイコの休眠機構の研究で学位を取得しましたが、オサムシの魅力に惹かれ、進化の道へと進みました。1994年から現在に至るまで、ずっとJT生命誌研究館で研究生活を送ってきました。オサムシの系統と進化の研究から出発し、昆虫類をはじめとする節足動物の系統進化、イチジク属植物を始めとする生物の相互作用と種分化機構の研究を行っています。