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研究館より

ラボ日記

2023.07.04

ナノテクに悪戦苦闘

私はこの3、4年間、ナノテクノロジー(ナノテク)の適用を試みて悪戦苦闘してきた。細胞と細胞を繋いでいる、カドヘリンと呼ばれるタンパク質分子の構造を、なんとか直接見てみたいと思ってのことだが、やっと最近になって、ナノメーターサイズの分子の気持ちが、少しばかり理解できるようになってきた気がする。
 1ナノメーターとは1ミリメーターの100万分の1。水分子の大きさが約0.38ナノメーターなので、1ナノメーターが如何に小さいサイズかがわかると思う。私が扱っているカドヘリンタンパク質の大きさは30から100ナノメーター程度の大きさが想定されるが、ナノの世界では、タンパク質を取り巻く水分子の影響が如何ほどのものなのか、想像力を働かせることが大事なのだと思う。

私にとって「悪戦苦闘」の要因は、主に3つ。
1)これまで私が行ってきた分子(DNAやRNA、タンパク質)の実験では、電気泳動や組織染色などの技術によって、分子の存在を集合として検出することがほとんで、分子の数に対する認識が非常に乏しかったこと。化学の教科書では、アボガドロ定数なるとてつもなく大きな数字(6.02×10の23乗)を習うが、ナノテクの実験ではまさにこの数字の意味を実感する。生成物の濃度を丁寧に計測することでこの問題はかなり改善された。

2)分子の純度や分子活性の保持に対する気配り。これはなかなか解決されない、難しい問題をはらむ。ひとつひとつの分子を観察してデータにするので、観察したまさにその分子が確実に本来の状態で存在していないと、誤った結論に至ってしまう危険性がある。また、見るべき分子以外の分子が混ざっていても解釈は危うい。

3)分子間の結合と個々の分子の観察を両立させる条件の難しさ。分子の濃度を上げれば、分子間でより頻繁に接触が起こるので分子間の結合は増えるが、分子の数が増えると分子自体が邪魔になって個々の分子が観察できなくなってしまう。分子の濃度を抑えて実験をデザインできるかや、分子の準備過程で生じる未反応成分を、見たい分子を失わずにきれいに除去できるか、などが大事になる。

具体的な実験内容に触れずに書いてしまったが、もう少し見せられる状態になったら詳しく紹介したい。簡単に言えば、平板状に構造化したDNAにカドヘリンタンパク質を連結して電子顕微鏡で観察する試みである。写真は、構造化したDNAを電気泳動後に寒天ゲルから切り出しているところ。

動物多様化の背景にある細胞システムの進化に興味を持っています。1) 形態形成に重要な役割を果たす細胞間接着構造(アドヘレンスジャンクション)に関わる進化の研究と、2) クモ胚をモデルとした調節的発生メカニズムの研究を行っています。