1. トップ
  2. 語り合う
  3. 研究館より
  4. 昆虫DNA研究会第19回研究集会 〜大澤省三先生を偲ぶ〜

研究館より

ラボ日記

2023.08.01

昆虫DNA研究会第19回研究集会 〜大澤省三先生を偲ぶ〜

昆虫DNA研究会第19回研究集会は、7月22日と23日の日程でBRHにて無事開催されました。前回BRHで開催されたのは、2011年の第8回でしたので、もう12年も前のことでしたが、研究集会の様子はいまでもまだ記憶に新しい。新型コロナウイルスの世界流行がなければ、今年はちょうど節目の第20回になるはずでした。20年と思うと流石に年月の流れを感じざるをえませんが、BRHのオサムシ研究からできた昆虫DNA研究会は立派な大人に成長したことを思うと、また感慨無量です。

 

BRHで開催された第8回の研究集会では、大澤先生が特別講演で「ゴミムシダマシの多様性について」熱演された光景は恐らく、参加者全員の記憶に深く残っているでしょう。今回の研究集会をBRHで開催してほしいと代表幹事の大場裕一先生から打診されたのは2022年5月17日のことでした。その時、また、大澤先生に特別講演でもお願いしようかと頭の中で薄らと浮かんでいました。というのも、4月中に先生と毎日のようにメールのやり取りをして、マイマイカブリの地域系統の境界について議論していたからです。思考力の衰えを全く感じず、いつも通りの先生でしたので、特別講演をお願いしたらきっと引き受けてくださると確信していましたが、流石にご年齢のことも考慮しなければと迷っていた最中に先生の訃報をお嬢様から受けたのです。残念ながら、特別講演の依頼から一転して「先生を偲ぶ」シンポジウムを企画することになってしまいました。

写真1 第8回研究集会で熱演する大澤先生

 

シンポジウムを企画するにあたって、大澤先生と深く関わりのある方に講演を依頼することから始めました。BRHオサムシ研究から出発し、蝶類DNA研究会を経て、昆虫DNA研究会へと発展してきたので、この流れの形成に深く関わった八木孝司先生、伊藤建夫先生、毛利秀雄先生、大場裕一先生に、それから、オサムシ研究に直接参加していた井村有希さん、冨永修さんと岡本宗裕さんに、講演または大澤先生との思い出話を打診してみたところ、皆様からすぐさま快諾を頂きました。井村さんは、患者さんをお相手にされているので、どうしても日程調整がつかず、今回のシンポジウムに参加できなかったのは、唯一残念なところでした。またの機会にお会いした時は、きっと大澤先生の思い出を語り合うことになるでしょう。
 

一方、私を含め昆虫DNA研究会の会員の多くは、主にBRH時代の大澤先生のことしか知らないので、それ以前の名古屋大学時代と広島大学時代の大澤先生のこともぜひこの機会に誰かに披露していただけたらと思いました。頭に浮かんできたのは、現在高知工科大学の教授でいらっしゃる大濱武さんでした。大濱さんは名古屋大学時代の大澤先生の愛弟子で、またBRHでのオサムシ研究の初期に短いが、少しの間に関わっていたので、大濱さん以上に相応しい方はいないと思いました。大濱さんに打診してみると、どこにでも喜んで飛んでいきますよと快くお返事を頂きました。また、大濱さんから家庭にいらっしゃる大澤先生、父親としての大澤先生のことはきっと皆さんが知りたがるので、お嬢様の中澤晶子さんに話していただけないかと提案されました。それは勿論私も知りたいし、聞きたいので、すぐさま中澤さんにお願いして実現することができました。さらに、中澤さんは大澤先生の遺稿集を研究集会の日程に合わせて出版し、参加者の全員に配ることにもなりました(写真2)。

写真2 大澤先生遺稿集

もう一人の方、香川県立東山魁夷せとうち美術館の学芸員である北地直子さんにも話していただきました。大澤先生のことが大好きな北地さんはBRH表現セクターの元スタッフで、当時オサムシ研究の成果まとめに加わり、「オサムシが語る進化のおはなし」という絵本(2003年)を作成しました。芸術的な感性をもつ虫好きで、大澤先生にすっかり気に入りました。大澤先生がBRHを退館された後も、大澤先生を囲む女子会メンバーの一人として、毎年大澤先生のお誕生日を広島で祝っていたそうです。今回の研究集会では、大澤先生記念グッズの作成と展示コーナーの設置も提案してくれました(写真3)。
 


写真3 大澤先生記念グッズと展示コーナー

「大澤先生を偲ぶ」シンポジウムは、JT生命誌研究館の永田和宏館長の冒頭挨拶から始まり、中村桂子先生がBRH設立当時の大澤先生に関わる逸話を披露し、その後、演者の一人ひとりが大澤先生との思い出を熱く語り続けていました(図4)。結局、午後3時頃に始まったシンポジウムは、予定より1時間以上もオーバーして、午後7時を回った頃にようやく終わったのです。シンポジウムには現地とオンラインをあわせて100名以上の方々が参加してくださり、大澤先生を偲んでいました。
 

写真4「大澤省三先生を偲ぶ」シンポジウムで熱く語る皆様

今回のシンポジウムを通して、若い頃の大澤先生や、家庭にいらっしゃる大澤先生のことも知りました。しかし、家にいる大澤先生も研究室にいる大澤先生と変わらずというような気がしました。奥様よりも研究材料である大腸菌の方が大事であることを奥様に正直に答えてしまうという、思ったことをそのまま話す大澤先生の正直さはどこにいても変わらないということが分かりました。また、大澤先生のわがままの一面も改めて確認することができました。しかし、大澤先生の正直さとわがままの一面を周りの人々に理解してもらい許してもらうことができるのも大澤先生のすごいところではないでしょうか。

最後に、今回の昆虫DNA研究会の研究集会並びに「大澤省三先生を偲ぶ」シンポジウムの開催にあたって、主催側を代表して演者、参加者、スタッフの皆さまに心より感謝を申し上げます。

蘇 智慧 (室長)

所属: 系統進化研究室

カイコの休眠機構の研究で学位を取得しましたが、オサムシの魅力に惹かれ、進化の道へと進みました。1994年から現在に至るまで、ずっとJT生命誌研究館で研究生活を送ってきました。オサムシの系統と進化の研究から出発し、昆虫類をはじめとする節足動物の系統進化、イチジク属植物を始めとする生物の相互作用と種分化機構の研究を行っています。