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研究館より

ラボ日記

2026.06.16

分子動力学シミュレーション始めました

細胞・発生・進化研究室の津山です。無脊椎動物カドヘリン細胞外部分の立体構造を解き明かす、というプロジェクトを進めています。少しですが構造も出始めて、それを使った分子動力学 (MD) シミュレーションという計算的なアプローチを最近始めました。今回はその計算シミュレーションについて書いてみようと思います。

タンパク質の分子動力学シミュレーションは、大雑把に言うと、「出発点になるタンパク質の形」と「原子どうしにどんな力が働くかというルール」をコンピュータに与えて、ごく短い時間刻みで原子を少しずつ動かしていく計算です。それぞれの原子がどちらにどれだけ動くかを、力がどのように働くかのルール (力場と呼ばれます) にしたがって順番に求めて、これを途方もない回数くり返します。具体的には、2フェムト秒刻み (500兆ぶんの1秒) で、2億5000万回計算すれば、500ナノ秒 (200万ぶんの1秒) をシミュレーションすることができます。動物の時間感覚からすると200万ぶんの1秒は非常に短い時間です。このブログをパソコンのディスプレイで読んでいる方もいると思いますが、現在のプロゲーマー用の最速クラスのディスプレイでも更新速度が600 Hz、つまり600ぶんの1秒ごとにしか更新されません。しかし、タンパク質の構造変化の時間スケールからすると、200万分の1秒はそれなりに長い時間になります。今回の場合、出発点の形はクライオ電子顕微鏡観察で決定したカドヘリンタンパク質の構造で、これが時間とともにどう揺らぎ、どう形を変えていくか、あるいは変わらないのか、といったことが計算されて、目に見える動画にすることもできます。

シミュレーションの結果は与えた前提から導かれた帰結であって、実際に細胞や試験管の中で起こっていることと一致しているとは限りません。そのため、計算の結果と、タンパク質の機能を調べるための実験結果とちゃんと一致するかどうかを確かめることは、とても重要です。機能実験と照らし合わせて合っていれば、置いた前提の1つである構造が、実験で調べている機能と関連があるだろう理屈です。また、これは同時に機能実験が妥当であることを支持する証拠にもなります。カドヘリンの複合体構造を使ったシミュレーションでは、実験結果と合うような結果が出始めていて、こういった望ましい展開になってくれるのではと期待しています。

実際にはこれはかなり単純化した説明で、シミュレーションが教えてくれる情報は非常に細かく、現代のどんな実験でも捉えられないほど細かい情報も含まれています。例えば、それぞれの原子の位置に関した情報だけでも、500兆ぶんの1秒ごとに、0.001ナノメートル刻み (10億ぶんの1ミリメートル) で記録しています。私たちの機能実験の結果と一致する、というのは、結果がプラスなのかマイナスなのかが一致するというような大まかなものです。原子の動きを動画として見てみると、いかにもそれらしく動いていて信じてしまいそうになりますが、どこまでの情報を使うのが妥当なのかについて、先行研究をしっかり調べる必要がありそうです。

津山 泰一 (奨励研究員)

所属: 細胞・発生・進化研究室