ラボ日記
2026.08.04
虫取り人生二週目
4月から働き始めて、早くも4か月が経ちました。
昆虫食性進化研究室の井上です。
今回は、尾崎ラボのメイン実験? 作業?と言っても過言ではない、「アゲハチョウの採集」について書きたいと思います。
生物を対象に研究していると、切っても切り離せないのが「サンプリング」です。そして、ときにこの段階が研究を進めるうえで大きな障壁となります。
私の博士課程では、実験に使用する除虫菊の花を数kg確保するため、数年間にわたって栽培方法を試行錯誤しました。最終的には、雪の積もる北海道の野外で栽培するのは難しい、という結論になってしまいましたが。この「サンプリング」が最初で最大の壁になっていました。
ショウジョウバエなど、累代飼育しやすいモデル生物を扱う研究室では、サンプリングはそれほど大きな問題にならないのかもしれません。そもそもモデル生物の多くは、飼育や繁殖がしやすいからこそ、モデル生物として広く使われるようになったのでしょう。
一方、アゲハチョウは長期間の累代飼育が簡単ではありません。限られた個体から飼育を続けると、近親交配の影響によって、わずか数世代で生存率や繁殖力が低下してしまうことがあります。そのため、アゲハチョウの研究を継続するには、野外から新しい個体を定期的に採集する必要があります。
そのような事情から、この4か月間、私はメイン実験の一つであるかのように、アゲハチョウの採集に勤しんできました。
虫取りをするのは、小学校低学年以来、およそ20年ぶり。ぼんやりとした記憶をたどると、当時捕まえていたのはカマキリやセミ、トンボばかりで、アゲハチョウを捕まえた記憶はほとんどありません。アゲハチョウは見かける数も少なく、ひらひらと飛んでいて、子どもの私には捕まえるのが難しかったです。
しかし現在、あの頃と比べて、私の捕獲能力は大きく向上しています。
身体能力が上がったことも、もちろんあるでしょう。しかし、それ以上に大きいのは戦略性が大きく上がりました。ナミアゲハの習性を学びながら、日々採集方法を改善しています。
具体的には、食草であるミカン科の木に近づいてくるタイミングや、花の蜜を吸いにくるタイミングを狙います。産卵や吸蜜に意識が向いている個体は不用心で、比較的簡単に捕獲できます。
反対に、目的もなく空中を飛んでいるように見えるアゲハチョウは、捕まえるのが非常に困難です。彼らは空中で急停止し、瞬時に方向転換します。深追いすると、こちらの膝と足首が壊されそうになります。
そのため、むやみに追いかけ回すよりも、釣りのように一か所で待ち構え、アゲハチョウが近づいてくるのを待つ方が効率的です。
もちろん、楽しいのは追いかけ回す方ですけどね。
日々採集を続けていると、強く実感するのが、アゲハチョウの発生には明確な周期があるということです。ナミアゲハでは、4月中旬に個体数が増えたかと思うと、その後はぱたりと姿を見なくなり、5月末しばらくすると次の世代が再び現れます。
4月中旬に一斉に休眠から覚めて、羽化して、産卵して、それが孵ってのサイクルだといえば、それまでなのですが、よく6ヶ月以上の休眠からそろって起きられるな、と大変感服致しました。さぞ、正確な温度、日照、時間のセンサーの仕組みが備わっているのでしょう。さらに大きな個体差があまり出ない仕組みがあるのでしょうか。謎は深まるばかりです。
皆さまも気が向いたら、「人生二周目の虫取り」に挑戦してみてはいかがでしょうか。子どものころとは違った知識や視点を持って虫を追いかけてみると、身近な景色が少し違って見えてきます。虫取りは、意外にも大人になってからの方が楽しめる遊びなのかもしれません。
昆虫食性進化研究室の井上です。
今回は、尾崎ラボのメイン実験? 作業?と言っても過言ではない、「アゲハチョウの採集」について書きたいと思います。
生物を対象に研究していると、切っても切り離せないのが「サンプリング」です。そして、ときにこの段階が研究を進めるうえで大きな障壁となります。
私の博士課程では、実験に使用する除虫菊の花を数kg確保するため、数年間にわたって栽培方法を試行錯誤しました。最終的には、雪の積もる北海道の野外で栽培するのは難しい、という結論になってしまいましたが。この「サンプリング」が最初で最大の壁になっていました。
ショウジョウバエなど、累代飼育しやすいモデル生物を扱う研究室では、サンプリングはそれほど大きな問題にならないのかもしれません。そもそもモデル生物の多くは、飼育や繁殖がしやすいからこそ、モデル生物として広く使われるようになったのでしょう。
一方、アゲハチョウは長期間の累代飼育が簡単ではありません。限られた個体から飼育を続けると、近親交配の影響によって、わずか数世代で生存率や繁殖力が低下してしまうことがあります。そのため、アゲハチョウの研究を継続するには、野外から新しい個体を定期的に採集する必要があります。
そのような事情から、この4か月間、私はメイン実験の一つであるかのように、アゲハチョウの採集に勤しんできました。
虫取りをするのは、小学校低学年以来、およそ20年ぶり。ぼんやりとした記憶をたどると、当時捕まえていたのはカマキリやセミ、トンボばかりで、アゲハチョウを捕まえた記憶はほとんどありません。アゲハチョウは見かける数も少なく、ひらひらと飛んでいて、子どもの私には捕まえるのが難しかったです。
しかし現在、あの頃と比べて、私の捕獲能力は大きく向上しています。
身体能力が上がったことも、もちろんあるでしょう。しかし、それ以上に大きいのは戦略性が大きく上がりました。ナミアゲハの習性を学びながら、日々採集方法を改善しています。
具体的には、食草であるミカン科の木に近づいてくるタイミングや、花の蜜を吸いにくるタイミングを狙います。産卵や吸蜜に意識が向いている個体は不用心で、比較的簡単に捕獲できます。
反対に、目的もなく空中を飛んでいるように見えるアゲハチョウは、捕まえるのが非常に困難です。彼らは空中で急停止し、瞬時に方向転換します。深追いすると、こちらの膝と足首が壊されそうになります。
そのため、むやみに追いかけ回すよりも、釣りのように一か所で待ち構え、アゲハチョウが近づいてくるのを待つ方が効率的です。
もちろん、楽しいのは追いかけ回す方ですけどね。
日々採集を続けていると、強く実感するのが、アゲハチョウの発生には明確な周期があるということです。ナミアゲハでは、4月中旬に個体数が増えたかと思うと、その後はぱたりと姿を見なくなり、5月末しばらくすると次の世代が再び現れます。
4月中旬に一斉に休眠から覚めて、羽化して、産卵して、それが孵ってのサイクルだといえば、それまでなのですが、よく6ヶ月以上の休眠からそろって起きられるな、と大変感服致しました。さぞ、正確な温度、日照、時間のセンサーの仕組みが備わっているのでしょう。さらに大きな個体差があまり出ない仕組みがあるのでしょうか。謎は深まるばかりです。
皆さまも気が向いたら、「人生二周目の虫取り」に挑戦してみてはいかがでしょうか。子どものころとは違った知識や視点を持って虫を追いかけてみると、身近な景色が少し違って見えてきます。虫取りは、意外にも大人になってからの方が楽しめる遊びなのかもしれません。


井上 史朗 (奨励研究員)
所属: 昆虫食性進化研究室
「どのようにアゲハチョウは食草を認識するのか」という問いに対して、植物分子・生物有機化学的アプローチを駆使して、分子レベルでのメカニズム解明を目指します。