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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【散らかしている暇はない】

2007.8.20 

中村桂子館長
 八月半ばに考えることはやはり戦争です。新内流しで有名な方(最近はこういう名前をど忘れします。以前はなんとか思い出そうとしたのですが、その努力も怠って…ますますダメになりそうですね)が、「戦争はいけません。あれは散らかりますから」とおっしゃったという話が好きです。戦争のない社会なんて絵に描いた餅。そんなこと考えたってしかたがないというのが大人の判断という風潮があります。確かに、これまでの人間の歴史は戦争の歴史だったと言ってもよいほどで、否応なく戦争に巻きこまれた人は数知れません。
 でも、21世紀はちょっと違うと思うのです。一つは、これまでの戦争の原因や動機にあたるものがいずれも意味を持たなくなっていること。もう一つは、散らかるようなことをやっている暇も余裕もないことです。二つ共にグローバライゼーションの結果です。この言葉は、そのまゝ日本語にすれば地球化。私たちは地球を見渡せるようになったと同時に、地球の持つ許容度を感じとらなければならなくなったのです。残念ながら、地球の持つ許容度は科学の力で解析できるものではなく、感じとるしかありません。この“感じ”を、非科学的と言って排除してはいけないでしょう。この感じに素直になれば、「戦争などやっている暇はない」という感覚が生れます。貧困のことを考えても、環境のことを考えても、そう感じます。ところが困ったことに、現代社会は、都市化し、科学技術がつくり出す人工環境の中での生活がほとんどになっているために、この素直な感覚が鈍くなっています。生命誌研究館は、生命と直結したこの感覚を持つ人が一人でも多くなるようにと願って仕事をしています。
 八月に入って、今年は特別暑いような気がします。今朝も、駅から研究館までの7分ほどの道のりを歩いただけで汗がふき出てきました。なぜこんな激しい気候なのだろうと思っても答はありません。たゞ、戦争に限らず、あまり散らかすようなことはしない方がよいだろうなという気はします。


 【中村桂子】


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