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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【遅れての新年の御挨拶です】

2010.1.15 

中村桂子館長
 うっかりしていました。先回は、新しい年が明けて最初の一言でしたのに、「科学技術予算」の話が続いていましたので、新年のご挨拶を忘れました。幸いこの国にはさまざまな年中行事があり、1月15日は小正月、改めて “明けましておめでとうございます。” を申し上げます。今年もよろしくお願いいたします。辞書を見ると、元日を中心とする大正月に対して15日は小正月であること、暦の知識が普及する前は満月の十五夜を境とするのがわかりやすかった(旧暦でないと十五夜にはなりませんが)ので、こちらの方が原点だろうとありました。そして、女の正月と言われると。大正月はお客様で忙しかった女性がホッとするということだったのでしょう。自然の中で生れた言葉であり行事です。
 1月7日の七草粥も、おせちで御馳走をたくさんいただいたお腹を休めると言われますが、最近は、昔の生活から見れば毎日がお正月のようで、それほど実感はありません。セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ。これを全部自分で集めるのは難しく、スーパーマーケットでセットを買うことになります。それでも、この日はお粥をいただき、11日に鏡開きをしないとなんだか落ち着かない気分になる世代です。一応我が家は母から受け継いだおせちに始まり、これらの行事を伝えていますが、社会全体としてはどうなっていくのでしょう。七草もスーパーマーケットで売っていますし、恵方巻なども最近はコンビニが新機軸で売り出していますから、意外にそんな形で伝わっていくのかもしれません。
 21世紀も第二の10年に入って、この世紀をどうするのかと考えた時、自然との関わりは大事な視点になるでしょう。10月に名古屋でCOP10が開催されることもあって、「生物多様性」という言葉が語られる時、いつも出てくるのが、これは難しくて人々に理解されていないという話なのです。ふしぎな気持になります。セリ、ナズナ・・・これだけでも七種もあるわけで、都会ではこういうものが簡単に集められなくなったとはいえ、身近にさまざまな草花は咲いています。
 生物多様性という言葉のお勉強をするのでなく、身近に自然を感じ、できることなら、文化の中で大事にされてきた自然との関わりなどを通して、生活感覚にすることが大事なのだろうなと思います。生命誌は、科学研究もそれを基本にしましょうという考え方で、今年も自分たちらしい活動をして行きたいと思います。もう一度改めて、今年もよろしくお願いいたします。この欄への投稿も含めて。



 【中村桂子】


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