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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【トビムシが本当に昆虫類の仲間なのか?】

2005年5月2日

蘇 智慧

 前回のラボ日記で科研費の申請について書きましたが、嬉しいことに先日その申請の内定通知が届きました。「採用されれば自分が考えている研究テーマの面白さがある程度共有されることになり、更に自信がつきます」と前回書きましたが、果たしてそうでしょうか。今のところ、そのような実感はまだしていないが、遣り甲斐が膨らんだことには間違いありません。研究の面白さがある程度認められたことに対して率直に喜んでいます。しかし、これから研究成果をあげなければならないプレッシャーや責任も感じています。
 では、その研究の内容と言うと、陸上昆虫(六脚類)の起源を解明することです。ここでいう陸上昆虫はいわゆる六本足を有する昆虫類全体の意味で、まだ海から上陸していない昆虫がいることを指している訳ではありません。水生昆虫に対して陸上昆虫と言う言葉があるが、水中に生息する昆虫はすべて陸上に生活していたものが二次的に、再び水の中の生活に移ったものと考えられています。
 昆虫類は大きく2つのグループに分けられています。1つはよく知られているトンボや蝶々のような羽を持っている有翅昆虫類で、もう1つはトビムシ(写真参照、体長1mmくらい)のような羽を有しない無翅昆虫類です。無翅昆虫の多くは体が小さく(小さいのは1mmにも足しない)、土壌生活しており、一般的にはあまり目にすることはありません。従来の昆虫類の系統進化に関しては、基本的に有翅昆虫類は無翅昆虫から生じ、翅を発達させて進化してきたものと考えられています。つまり、無翅昆虫類と有翅昆虫類は祖先を共有しています。  しかし、2003年に「Science」という最もレベルの高い科学雑誌に無翅昆虫類が系統進化上において甲殻類(エビやカニなど)よりも先に分岐しているという論文が掲載されました。つまり、無翅昆虫類と有翅昆虫類との間に、甲殻類が入る形となり、無翅昆虫類は昆虫類の仲間でなくなります。この研究結果はミトコンドリアゲノム上にある幾つかの遺伝子のアミノ酸配列を比較して得られたものです。ところが、すぐ後同じミトコンドリア遺伝子だが、アミノ酸配列でなく塩基配列に基づく別の研究論文が同じ「Science」誌に発表され、先の論文の見解を否定し、従来の考えを支持しました。どちらが正しいか、これから研究を重ねていかなければならないが、従来の考え方に大きな疑問を投じたことには間違いないでしょう。
 私たちの最近の研究結果でも、無翅昆虫類の系統進化上における位置は極めて微妙で、まだはっきり分からないが、“甲殻類の一員”になるような可能性もあり得るのではないかと感じています。果たしてトビムシは本当に昆虫の仲間で良いでしょうか。六本足という特徴が一回だけの進化でしょうか。答えが早く出ることを期待しています。


[DNAから共進化を探るラボ 研究員 蘇 智慧]

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