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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【カゲロウに思うこと】

佐々木剛

 先日、展翅して一年近く経つ標本を標本箱へ移す作業をしました。昨年のラボ日記でもご紹介しましたが、京都の貴船川にムカシトンボなどを採集しに行ったときの標本です。主にトンボとチョウの標本で、ラベルをつけて整理しながら、当時の興奮を思い起こしたりしていました。同じ種のトンボでも、雄と雌はもちろん、羽化して間もない若者かだいぶ経つ熟練者か、体の大きなもの小さなもの、翅や体の色合いの違いなどなど、それぞれに個体差(個性)があり、採集後の標本作りも楽しい作業のひとつです。その中に一個体だけですが、カゲロウもいました。
 カゲロウはトンボと並んで、翅のある昆虫(有翅昆虫)の中で最も古くに分岐したと考えられている、昆虫の進化上重要な位置を占める虫です。トンボとカゲロウをあわせて「旧翅類」としてまとめていいのか、それともトンボかカゲロウのどちらか片方がより古くに分岐したのかは、まだ解決していない問題で、当ラボでも現在研究中です。
 カゲロウははかないものの代名詞ともなっているようにとても弱く、貴船川でたまたま採集できたものを持ち帰るまでに死んでしまって、そのまま標本にしていました。標本にするときや標本になってからも非常に脆く、長い尾が折れそうになったり、翅もしわをのばせないまま固定してしまいました。
 その後、四国へ昆虫採集に行ったときにもカゲロウを数個体採集することができましたが、最近おもいがけず多くのカゲロウを目にする機会がありました。ゴールデンウィークに訪れた旅館での、夕食時のことです。その日はあいにくの雨でしたが、閉め切った窓の外側にびっしりとカゲロウが留まっているのが見えました。近くの川で大量発生していたのでしょう。
 カゲロウの成虫は短命で、羽化して2〜3日ぐらいしか生きられません。中には数時間で死んでしまうものもいます。はかない命のカゲロウも、大量に発生している様子をみると、強い生命力を感じます。もっとも、長い進化の過程を絶滅せずに生き抜いて現在でも繁栄しているのですから、生命力に満ち溢れているのは当然かもしれません。
 今年生まれたばかりの息子には、虫の好きな、そして自然を愛する子に成長してほしいと思っています。いや、そのように育てたいですね。




[DNAから共進化を探るラボ 佐々木剛]

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