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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
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【中国でのシンポジウムに参加して】

蘇 智慧

 今年のお正月はゆっくり過ごすことはできなかった。例年だと大晦日の日の午前中は大掃除の仕上げ、午後は食品の調達、年夜飯作り、それから、食べながら紅白をみる。新年を迎えた後、家の近くの神社に行って初詣。友達や友人と一緒に過ごすこともあり、その場合、飲んだり、食べたり、話したりして、大体徹夜になる。当然、お正月の日はほぼ一日寝ている。その後はとにかくゆっくり心身を休ませて新しい一年のために元気を備えておく。ところが、今年は我が家のいつものお正月の過ごし方は完全にくずれてしまった。2日の朝一番から私は中国に出かけなければならない。中国広州にある中山大学で開催されるゲノムと進化生物学のシンポジウムに出席するためである。
 このシンポジウムは中山大学にInternational Center of Genomics and Evolution Biologyを設立するために開催された記念シンポジウムで、その正式名称はInternational Symposium on Genomics and Evolutionである。International となっているが、二、三人を除いて出席者全員は中国人である。恐らく海外の中国人が多数出席しているためであろう。少し驚いたのは出席者全員が会議から招待され、国際・国内旅費、宿泊費を含むすべての費用は会議が負担していることである。あまりに例を見ない。というのもそれなりの理由があるかもしれない。ゲノムと進化生物学関係の国内の有名研究者或いは関係者がほぼ出そろっており、海外からは分子進化分野において世界的に名を知られているWen-Shiung Li (アメリカシカゴ大学教授、アメリカアカデミー会員)、Chung-I Wu(アメリカシカゴ大学教授)、Ziheng Yang(英国University College London 教授、英国ロイヤルアカデミー会員)をはじめ、海外で活躍している大勢の中国人研究者が招待されている。私も幸いその中の一人となっているが、もともと中山大学と少し関わっていたのが原因だったかもしれない。
 一日目の公開講演は大学講堂で行われ、シンポジウム出席者の他に大勢の大学生、大学院生が参加していた。質問が多く、討論も激しい。時間切れのため、座長がしばしば議論を止めざるを得ない。日本での学会やシンポジウムとは、何か光景が違うように感じる。会議用語は一応中国語になっているが、演者は途中で無意識英語になってしまう。または中国語文法に英単語、綺麗(純粋)な中国語はほとんど聞かない。私の普段の生活の中で中国語をしゃべろうとすると必ず日本語が混じるのと同じ、海外で長い生活をしているとこうなってしまう。しかし、講演中に日本語が出てくると、誰もが分からないのでとても困ることになる。十二分に注意して話したお陰か、幸い無意識に日本語がでることを何とか免れた。英語や中英混語をしゃべっていた演者はこんなに注意を払っていなかったろう。。。払わなくても良いと思うと、何となく羨ましいというか、寂しいというか、複雑な気持ちになる。
 2日目以降の会議はクローズになって、広州郊外のリゾート地にあるホテルで幾つかの斑に分けて行われた。研究発表よりも、アイディアの交流のような討論会を目的にしているようである。つまり、これまでの研究結果でなく、現在進めている研究と進めようとしている研究、或いは単なる漠然と考えていることを語り合う。ただ、お互いに競争立場にもあるので、どれほど本命のことを語り尽くしていたかは疑問ではあるが、私はそれなりに有益で楽しい会議だったと思う。このシンポジウムが中国にける進化生物学研究の発展のきっかけになることを期待したい。



[DNAから共進化を探るラボ 蘇 智慧]

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