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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【バーチャルセル & バーチャルカドヘリン】

西口茂孝 今年の4月から修士1年生として、小田広樹先生の元で研究をしている西口茂孝と申します。どうぞこれからよろしくお願い致します。私は学部生の頃は分裂酵母という微生物に関する研究を行っていたのですが、多細胞動物はどのようにして多様化したのか? というテーマに対する小田先生の研究にショックを受け、こちらのラボへと移ってきました(他にも語りきれない想いを持ってやって来ました)。初めの2ヶ月ほどは、クモの胚発生をテーマとして研究を行っていたのですが、現在は方向転換をして小田ラボのもう1つのテーマであるカドヘリンに関する研究を行っています。

 カドヘリンは多細胞動物において、細胞と細胞とをつなぎ止める役割を持ったタンパク質なのですが、その構造が系統樹の根元に位置づけられる動物においては長く、上流に位置づけられる動物(ヒトなど)においては短くなる(コンパクトになる)といった非常に興味深い特徴を持っています。カドヘリンは多細胞動物における細胞接着や細胞運動の重要な要素の1つであることから、多細胞動物の形態と密接な係わりを持つことが考えられます。では一体カドヘリンの構造の違いが多種多様な動物の形態とどう関係があるのか? その答えはまだはっきりとはしていません。
 私はこのカドヘリンについて初めて知ったとき、もしある個体のカドヘリンを異種の個体のカドヘリンに置き換えてやるとどういった現象が起こるのか? と何となく思いました。私はある個体のカドヘリンの機能と、それとは別の個体の細胞運動や細胞間シグナルに関する機能データを集め、仮想的な細胞の上(コンピュータ上)でこれらを組み合わせてやるとどういうことになるのか? という妄想をしています。たとえば、ある個体の細胞ダイナミクスの中で異種の個体のカドヘリンはどのように機能するのか? どこで障害が生じるのか? さらに、その障害はどのようにして克服されるのか?・・・妄想は止まりません。
 この話はただの妄想にすぎませんが、少なくともこのような実験系をつくりあげるためにはカドヘリンのどのような機能や、細胞運動もしくは細胞間シグナルなどの機能データを集める必要があるかを考え、それらを生命現象の中から探っていく必要があります。私は学生なりにですが、生命現象の多様さ、複雑さに圧倒されるほどに、この広大すぎる生命現象の海の中を泳ぎ続けることよりも、先ほど述べた話のように、目的に必要と思われる要素だけを抽出し、自分で小さな海を構築していくことによって、生命現象をよりシンプルに理解していきたいと考えています。しかしそうは言っても、現在使える技術を用いて現実的にどういったアプローチができるのか、より具体的に考えていきたいと思います。

[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 西口茂孝]

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