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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【ナメクジウオの撮影を終えて】

1999年12月15日

 先日、ビデオ撮影のため南紀白浜にある京都大学付属瀬戸臨海実験所に行ってきました。ビデオは来年春公開予定で、進化の裏でゲノムがどんなふうに変化してきたかをテーマにしたものです。私たちが想像する以上にゲノムはダイナミックな変化を遂げているらしいのですが、内容はともかく、白浜では脊椎動物の祖先に最も近い動物と考えられている脊索動物のナメクジウオの撮影をしました。ナメクジウオは体長が5〜6センチで、白魚のように透明感のある細長い動物です。名前にも"ウオ"とついているくらいで、知らない人が見たら誰もが魚の一種だと思うでしょう。しかし、魚のような背骨は持っておらず、代わりに脊索という芯を持っています。
 この比較的地味な動物をなんとか美しく魅力的に見せようと頑張ったわけですが、相手は動物、なかなか人間の思うようには動いてくれません。習性上、すぐに砂の中に潜ってしまうのです。粒の粗い砂に変えても、しばらくするとやはり忍者のように姿を消してしまいます。結局、かなりの時間を費やし、ようやくのことで遊泳するナメクジウオの撮影に成功しました。撮影スタッフ自作の奥行きが短い水槽と、実験所の和田洋さんの協力、それからもちろん、主演のナメクジウオのお陰です。光がうまい具合に反射して虹色に輝いて見えるナメクジウオの姿も捉えることができ、上出来だったと思っています。
 次の日は、カイメン撮影のためのロケハンを行いました。干潮時に、実験所の田名瀬 英朋さんに生息場所に案内していただきました。これまた地味な動物で、まるで苔のようにただ岩にへばりついているだけです。カイメンは動物の中では最も原始的で、多細胞動物の祖先はカイメンのような動物だったと考えられています。
 進化を知る上で重要となる動物には、このような地味なものが多いようで、ビデオ化しなければならない者にとってはかなり辛いところです。「もう少し見栄えが良ければな〜」と愚痴らずにはおれません。しかし、これが現実。こうした地味な生物が進化を知る鍵となるのです。いろいろ工夫してなんとか面白いビデオにしようと頑張っていますので、完成したら是非見に来て下さい。
[鳥居信夫]

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