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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【牧野富太郎博士の生涯にふれて】

2000年6月15日

 5月の末、発生生物学会に参加するために、高知に行ってきましたた。学会そのものも、昨年同様、熱気に溢れていて楽しかったのですが、学会終了後、飛行機に乗るまでの時間があったので、さらに面白いものを見ることができました。それは高知市の郊外、五台山にある高知県立牧野植物園です。日本の植物学の泰斗、牧野富太郎博士を記念して作られた植物園で、最初にできたのはかなり前だそうですが、昨年の11月に新しい展示館が完成し、リニューアルしたところでした。
 なんといっても感動したのは、植物とともに過ごした牧野博士の生涯が、本物の標本、論文、著書、そしてパネルや映像による解説を通して、見事に見えてくることでした。もちろん牧野博士の名前は知っていましたが、彼自身が作った標本や、描いた植物画を直接見て、実にスケールの大きい仕事をした人だと改めて感心させられました。
 更に、植物を本当に理解するには、いわゆる西洋流の自然科学だけでなく、万葉集も、中国の本草学も、ありとあらゆるものを学ぶ必要があると考え、関係する文献を全部集めたという情熱にも驚きました。集められた文献は「牧野文庫」という形で植物園に保存されており、「本草綱目」をはじめ、和漢の植物関係の蔵書の充実ぶりは日本でも有数だそうです。
 我々は自然科学を語るとき、つい「西洋から本質を理解せずに取り込んだ」ので日本にはなかなか根付かない、ということを言いますが、少なくとも牧野博士の中では、もっと自然な形であらゆる学問がつながっていたのではないでしょうか。目の前にある植物とまず向き合ってみる、すると、それを理解する方法として、西洋の植物学も日本や中国の古典もすべてが役に立つ。ただそれだけのことだったのではないか、という気がします。
 多くの研究が、DNAを含む「試験管の中の物質」を扱うことばかりになってしまっている昨今の状況の中で、自然と向き合うことも、冷静に分析することも、そして、植物の世界に感動することも、すべてひとつの営みの中に含まれていた牧野博士の豊かな「科学」の世界に触れて、やはり現代の科学は何かを失ってしまったのではないかと、考えさせられた次第です。
[加藤和人]

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