1. トップ
  2. 語り合う
  3. 【昆虫の脳を持ち帰って】

表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

バックナンバー

【昆虫の脳を持ち帰って】

2000年10月15日

 前回も書きましたが、現在、脳の進化展(案)の調査を進めています。先日、その展示に使う神経系の標本を北大から持ち帰りました。持ち帰ったのは、ザリガニ、アキアカネ、ナメクジ、コウロギ、ワモンゴキブリ、イシガニ、スルメイカ、ミミズ、スズメバチの神経系です。ミミズとスルメイカ以外は、ビーズを細い糸で一定間隔ごとにつげたような構造をしていて、脳に相当する先端の膨らみには目がくっついています。私も実物を見たことがありませんでしたので、展示して本当に面白いものかどうか不安でしたが(珍しいものには違いないと思ってはいましたが)、取り越し苦労でした。大変美しいもので、大きさでははるかにかないませんが、決して哺乳類の脳に見劣りするものでありません。むしろ、こんな小さな脳で、あんなに複雑な行動ができるのかと生命の神秘を感じるものでした。
 昆虫の脳はなぜ小さいのか?それは体が小さいからです。では、どうしてからだが小さいのか?これには、いろいろ理由がありそうです。一つには、脊椎動物のような内骨格でなく、外骨格をもっているからだと言われています。体を大きくすると、それに耐えるような機械強度をもった外骨格が必要となり、そうすると体が非常に重くなるのだそうです。体が小さい利点がたくさんあることも挙げられます。慣性が小さいので素早い動きができる、狭い範囲にたくさんの個体数が生息できる、資源の争奪競争が小さくなるなどです。一方、体重に対する体表面積の比率が大きいので外界の影響を受けやすいなど、不利益も当然あります。とくに、小さな脳で、歩行や飛行、生殖行動などいろいろなことをしなくてはならないのは大変なことでしょう。どうしてこんなことが可能なのでしょうか?昆虫の脳に特有の工夫があるに違いありません。これについては、申し訳ないのですが調査不足でまだ書けませんが、展示では何らかの答え(仮説)をご紹介したいと思っています。
[鳥居信夫]

表現スタッフ日記最新号へ