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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【表現は自己創出する?】

村田英克
 卵からひよこが生まれた。動物や植物はどれも細胞が集まっているものだ。どうしてDNAは2重らせんの形をしているのだろう。この世界で、自分が見つけた事象、そこから分かったこと、さらに湧き出た疑問を、誰かに伝えたい。
 私たちは、毎日を過ごしていて、こんなことがあったという体験や、その際に自分の中で生まれた理解を誰かに伝えたいと思う。だから、たぶんまず身体を使って、顔の表情を変え、声に出し、歌い踊り、ものを得て相手に与え、字や画を掻き・・・。さまざまに外部へ働きかけて表現しようとする。泥や粘土で何かを形象化する、引っ掻いて像を描く、文字を連ねて声を記す・・・。昔から私たちはいろいろ工夫してきた。今だったら、例えば、コンピューターを使って、音も字も画も、集めた全部をデジタル情報にして、もう一回、編み上げて、複製して頒布したりする。伝えられ、語り継がれる過程で、さらに解釈され、選択され、意味づけがされる。
 ある事象を初めて見出した者も、それを知りさらに伝えていく者も、それぞれの時点において、知り得た時に生じた驚きや喜びを含めて伝えていくことができれば、そこから新たに疑問も生まれ、知の共有は自ずと広がっていく。だから、伝えたいものごとを何かの形にまとめていく時には、できあがったものが送り出された後、どういう文脈で、どんな場面で捉えられても、伝えるべき具体が、伝えたい概念が、論理の展開としても、感情の起伏としても、伝わるよう考え得る限りの契機を配慮して表現したい。
 そういう仕事を実際にやるのは大変です。一人ひとりのがんばりはもちろん、いろんな人たちが繋がり合い、かつ恵まれた状況に助けられることが無ければ達成できないでしょう。今回、講談社ブルーバックスさんから[DVD & 図解]『見てわかるDNAのしくみ』という題で出版して頂き、さらに広がる機会を与えられた映像作品「DNAって何?」に、工藤さんを中心に取り組んだ数年の間、大変幸せなことに、ある域まで、そんな体験にどっぷりつかることができました。この仕事は、苦労した以上にいろいろな喜びや驚きを分かちあえたし、そういう形にすることができれば、そこから見出され、さらに共有が広がっていくという手応えを返してくれました。すべての表現がそうですが、ここに描かれていることは理解のひとつの姿にすぎません。しかし物語りを辿っていく過程から、ほんとうのことが現れてくる。そう思います。
 生命現象は、生きている細胞の中で起きていることを表現する。その時、生きものが持つ階層性が伝わるように表現する。もちろん、伝えたいのは分かったところだけでなく、皆で一緒に考えていくことができるように、考える過程や手掛かりがつまった表現にする。などなど、以来、毎日、精進しています。




 [ 村田英克 ]

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