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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【カイメンとホヤ】

2014年4月1日

平川美夏

カイメンとホヤ、あまり馴染みがないかもしれませんが、どちらも水中の生きもので、動物研究では重要な役者です。カイメンは一番単純な多細胞動物で、ホヤは私たち脊椎動物に一番近い脊索動物の仲間です。それぞれのDNAデータを使って動物の進化系統樹を描けば、カイメンは根っこに現れ、ホヤは昆虫よりもヒトデよりもヒトに近いのですから、ずいぶん離れた生きものです。でも形が似ているためか、子供向けの学習図鑑を見るとカイメンとホヤはならんだページに載っています。「あーあ、子供と思って手を抜いて」と系統樹に慣らされた頭はついそう思ってしまいます。

「動物の系統と個体発生」(東京大学出版会)という本を読んでいたら、ホヤの体制について「単体性のホヤの外観は海綿動物によく似た壷状である」という記述を見つけました。3月に急逝された団まりなさんの著書です。団さんは「生命誌絵巻」や「細胞展」など研究館と共に歩んだ大切な方です。私も階層を切り口としたデータベースを構想する先輩として多くのことを学ばせていただきました。生命誌マンダラの制作を通じて改めて「階層を貫くゲノム」を考えようと、お話したいと思っていた矢先の訃報に残念でなりません。

さらに読み進めると(ホヤは筋肉層が発達しているので)「ホヤに外部から刺激をあたえると(たとえば手でつかむと)、水鉄砲のようにピュッと水をとばしてすばやくからだをちぢめる。この点もホヤと海綿動物をみわける重要なポイントである」と続きます。生きものを特に海の生きものを知り尽くした団さんでさえつかんでみて納得するほど、やっぱり一見似ているのです。自らの見たものや経験を積み上げられ、常にオリジナリティを大切にされていた団さんに、頭でっかちを指摘された思いがしました。

生命誌は生物学を基本にした知ですから、もちろん最新の科学知識をとりいれることは大切です。でも経験や直感といった日常との結びつきを忘れてはいけません。そして学問を超えた新しい見方を追求することも生命誌の役目ではないかと思っています。多細胞の始まりを留めるカイメンと脊椎動物の起源を教えるホヤ。方やぶよぶよで、方やぷりぷり。でも形はそっくり。そんなさまざまな視点をみんなのみこめる知であれるように心がけていきたいのです。

さて本の続きですが、「ちなみにナポリで試食したミクロコスモスという名のホヤは、とれたてのその身の色といい味といい、赤貝にそっくりであった」ときます。さすが生命誌の大先輩。心意気受け継がせていただきたく思います。

[ 平川美夏 ]

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