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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【おかえりなさい、エンピツ君】

2015年1月5日

平川 美夏

新年あけましておめでとうございます。

なぜか3年連続新年最初の日記の担当です。今年から生命誌研究館の年度の始まりも1月になりました。季刊「生命誌」も年度に合わせての年間テーマになります。気持ちも新たに、生命誌のさまざまなかたちを発見していきたいと思います。

さて、生命誌研究館の入り口奥でお迎えする「骨と形」展示に新たな仲間が加わりました。ミナミアメリカハイギョの標本です。そうです。2013年8月15日に永眠した研究館の仲間、あの「エンピツ君」です(水槽には今、2代目エンピツ君が元気に泳ぎまわっています)。

一双の肺を持ち鰓が退化しているので、時々呼吸のために鼻先を水からつきだす行動や哺乳類以外では珍しい噛みながら食べるという習性など、生きている姿からいろいろなことを教えてくれたハイギョです。安らかに眠らせてあげたい気持ちもありましたが、まだまだ習いたいこともありそうで、骨格標本になってもらいました。まず発生展でご協力いただいた東京慈恵会医科大学の岡部正隆先生のご紹介で、高次元医用画像工学研究所の鈴木直樹先生にCT画像の撮影をしていただきました。鈴木先生は冷凍マンモスの撮影でも著名な探検研究家です。にょろにょろと形の定まらない身体をうまく整えて、全身の姿を残してくださいました。この画像を元に西尾製作所のご協力で骨格標本が完成しました。

頭部の骨を見ると食事はおちょぼ口でもぐもぐしていましたが、実は立派な顎の持ち主とわかります。しっぽのあたりの背骨がCT画像では映っていませんが、実は肺魚の背骨は軟骨に囲まれた脊索だそうです。四足動物に一番近い硬骨魚類なのに背骨が「骨」らしくないのです。ちなみに肉鰭類で仲間のシーラカンスも背骨が「骨」ではありません。脊椎動物で最も多様化した条鰭類の魚たちと、上陸をめざした肉鰭類の歴史の違いがみえてきそうです。

さて、しみじみ眺めていると、老衰だったのか食が細くなり肌につやがなくなっていった姿を思い出してしまいます。なんとか食べてもらおうといろいろ試して、やっとミミズを食べてくれたので、出勤途中はミミズを求めて地面をにらんで歩きました。入り口の自動扉が開くたび蝉の声がホールまで響く頃でした。

「お帰りなさい、(初代)エンピツ君。また、話そうね。」


CT画像の勇姿

骨格標本の勇姿

[ 平川 美夏 ]

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