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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【ギボシムシに惹かれて】

2015年12月1日

有馬 えり奈

先日、ギボシムシのゲノムが解読されました。ちょうど1年前、生命誌で紹介する記事を探していた時、宮本教生さんの研究成果の記事を発見し、ギボシムシの見た目、体制、生態の面白さに非常に興味を持ったことを思い出しました。

ギボシムシは半索動物門に位置づけられ、ウニやヒトデなどの棘皮動物と姉妹群であり、脊索動物はその両方を合わせた仲間と姉妹群の関係です。ミミズのような外見ですが、鰓裂(注1)、脊索に似た器官の口盲管(注2)、神経管と似た器官の襟神経索(注2)を持ち、脊索動物に似た左右相称の体制を持ちます。一方で、背腹軸を決めるメカニズムは昆虫などの前口動物に似ています。前口動物と後口動物の間を漂うようなこの生きものをもっと知りたいと思い、宮本先生のところへ取材に行きました。その中で非常に驚いたのは、体長が数センチのものからなんと2メートルの多様なギボシムシがいること(海底の砂の栄養を濾し取って生きているのでヒトを襲うことはありません、細長いです。)、体の先にある「吻」という器官で海底に穴を掘って棲んでいること、触ると体がちぎれてしまうような繊細な生きものであるということです。ギボシムシは採集・飼育が難しい生きものであり、分類学・生態学的な情報が不足していたこと、日本各地に採集に行って新たに10数種のギボシムシを発見されたことなど、ギボシムシについてたくさん教えていただき、ますますギボシムシの魅力に惹かれていきました。

最も興味深いのは、後口動物(棘皮動物門・半索動物門・脊索動物門を含む)の共通祖先は、おそらくギボシムシに似た単純な形態をしていたと言われていることです。今回のゲノム解読から、私たち脊索動物と似ていないウニやヒトデとの共通点が鰓裂(エラ)だということ、そこで使う粘液の形成に重要な遺伝子(栄養を濾し取る際に必要)が、後口動物の祖先で多様化されたことがわかり、後口動物の共通点や祖先像が見えてきました。私たちの祖先はギボシムシのような姿をして、海底でゴロゴロと転がりながら、砂の栄養を濾し取り暮らしていたのかもしれませんね。そこからウニや私たちへつながるなんてびっくりですが、およそ5億年の間に何が起こったのか、みなさん気になりませんか。生命誌を一つ知ると、次は一つ二つと疑問が湧き出てきてその繰り返しです。その生命への疑問を整理してまわりのスタッフと相談しながら、「生命誌の階段」のバーチャル展示の第二弾を作りたいと考えています。公開はまだ先の予定ですが、38億年続く生命のしたたかさや柔軟さをみなさんと共有できる展示を企画していますので楽しみにしてください。

最後に、宮本先生が研究されたシモダギボシムシは静岡県下田市で発見されました。全国各地にギボシムシは生息していますので、来年の夏、海に行かれたらぜひ浅瀬で探してみてください。ちぎれやすいので、扱い方に気をつけてくださいね。ネットで検索すると採集方法を見ることができますよ。

83号 リサーチ
私たちの起源は? 海底のムシから脊索の起源を探る 宮本教生

注1:脊椎動物の胚の咽頭の左右にあり外界に開く孔状の構造。水棲の生きものではここに鰓が生じる。ホヤやナメクジウオなどの脊索動物、ギボシムシでは成体にもある。(季刊誌83号記事より)

注2:相同器官であるかどうかは諸説あり、決着はついていない。

ギボシムシゲノム解読が気になる方はこちら(日本語で読めます)
http://first.lifesciencedb.jp/archives/11802

[ 有馬 えり奈 ]

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