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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【ヨコをつないだ経験】

2017年3月15日

松田 直樹

雪の日が多かった冬もようやく終わり、春の暖かさが感じられるようになってきました。日本のような温帯に生息する多くの昆虫たちにとって、春は目覚めの季節です。屋上の食草園では、昨秋からジャコウアゲハが蛹の状態で春が来るのを今か今かと待っているようでした。彼らは無事に春を迎えて飛び立つことができるでしょうか。あわよくば食草園に子孫を残してもらいたいものです。来年も食草園が様々なチョウで賑わうことを期待しています。

春は年度が替わって新しいことが始まる季節です。かくいう私も、この春に大学院の博士課程に進学します。それを機に、より研究活動に専念するために展示ガイドを退職することになりました。2年前の春、展示ガイドを始めたばかりの私を研究館前の桜が満開で迎えてくれた光景を思い出し、懐かしく感じています。これまでに来館者の皆さまと生命について語り合い、共に考えた時間は楽しく刺激的なものでした。もともと昆虫が好きで、大学でも昆虫を研究対象にしていることもあって、チョウの食性やイチジクコバチの生態について皆さまに驚いていただけたときに喜びを感じてきたものです。このような経験は、来館してくださる皆さまとの関わりがなければ得られなかったでしょう。ゲノム展で紹介するような生物同士の相互作用に例えるのは大げさかもしれませんが、私と皆さまとの「ヨコのつながり」は大事ですね。

このように展示を紹介することは楽しいのですが、自分の研究を皆さまに紹介することができればもっと楽しいはずだと思うようになり、研究者を本気で志すことになりました。初めから研究者になりたいと思い続けてきたまっすぐな人生ではありませんでしたが、皆さまに展示を案内してきた経験は大事な「緯糸(よこいと)」となり、私の人生を広げてくれたと思っています。これからも研究者に限らずいろいろな方と関わりあいながら、研究をわかりやすく伝える技術を磨き続けていきたいと思います。生き物に興味を持っている人は研究者以外にもたくさんいるのだと学んだことは、きっとこれからの研究のモチベーションになるでしょう。

2年間という短い間でしたが、展示ガイドを通じて関わったすべての方々にお礼を申し上げます。いつの日か一人前の研究者として皆さまにお会いできたときには、ぜひ展示ガイドのときと変わらず、気軽にいろんな話で盛り上がりましょう。それでは皆さま、お元気で。

[ 松田 直樹 ]

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