研究
2025.09.09
キアゲハの蛹が羽化しません
あめさん
タイムプラスで動きを確認しており
白く羽も透き通っているのですが
2週間超えても羽化する気がないみたいです。このあとどう管理していったら良いのか悩んでおります。
2025.09.12
1. 奥井かおり(表現を通して生きものを考えるセクター)
ご投稿ありがとうございます。お知らせいただいた状況をふまえますと、おそらく死んでしまってこのまま羽化しない可能性が高いのではないかと推察されます(尾崎研究員も同じ意見です)。私も個人的に同じような状況で、もしかしたら出ることもあるかな?と思い、一年くらい部屋に置いている蛹がいくつかあります。ご自身の納得するまで観察されるというのも、一つの選択肢としてあるのではないでしょうか。
2025.12.17
2. うりちゃん
先日はジャコウアゲハの蛹化について質問させていただきましたのに、引き続きのコメントで申し訳ありません。あめさんのコメントについて、私もキアゲハの羽化について疑問に思ったことがあります。6月29日、ニンジンの葉にいた2匹のキアゲハ若齢幼虫を持ち帰って飼育。7月9日と10日にそれぞれ蛹化しました。普通、蛹化から2週間ほどで羽化するはず。ところが蛹が死んだ様子はないのに2か月経っても羽化しません。そのまま様子を見ていると、1つの蛹の色が突然変わり始め10月12日に羽化が始まりました。でも残念ながら、羽化不全でした。もう一つの蛹は10月15日に無事羽化しました。でも、この時期の羽化では配偶相手が見つかるか、食草はあるか、これから産卵して孵化した幼虫が越冬できる蛹まで育つかどうか、いろいろ気になりました。飼育中あまりに暑いので、途中から屋内飼育に変えました。それにしても、3か月以上休眠しての羽化もあるのですね。温暖化の影響もあるのでしょうか。長々とすみません。よろしくお願いいたします。
2025.12.17
3. 尾崎克久(昆虫食性進化研究室)
サナギの期間が3ヶ月以上というのは驚かれた事と思いますが、それはキアゲハの特徴のひとつです。
1. 暑さを避けるための「夏休眠(夏眠)」
結論から言うと、今回の現象は「夏休眠:なつきゅうみん(夏眠:かみん)」と呼ばれるものだと思われます。
キアゲハは暑さが苦手
キアゲハは比較的冷涼な気候を好むチョウです。真夏の猛暑を避けるために、一時的に発育を止めてサナギの状態で過ごすことがあります。これが夏休眠です。
3ヶ月の長期発育停止
通常は10日〜2週間程度で羽化しますが、暑い時期は「今は幼虫(自分の子供たち)にとって危険だ」と判断し、涼しくなる秋までサナギで発育を止めることがあります。7月から10月までサナギでいたのは、まさにこの猛暑をやり過ごしていたためと考えられます。
2. 未解明な部分が多い「夏のスイッチ」
冬の休眠(きゅうみん)は「日照時間」という明確なスイッチがあるのに対し、夏休眠は少し仕組みが異なります。
条件は未解明
冬の休眠と違い、「何がきっかけで夏休眠に入り、何がきっかけで目覚めるのか」という正確な条件は、実はまだ完全には解明されていません。
個体差が大きい
同じ環境にいても、すぐに羽化する個体と、今回のように数ヶ月眠る個体が混在することがあります。これは危険分散のようなもので、全滅を防ぐための生存戦略と考えられています。
3. 休眠のルーツは「乾燥」への対策
興味深い説として、こうした休眠のメカニズムは、元々「乾燥耐性」が変化したものと考えられています。
昆虫にとって、暑さは「乾燥」とセットで訪れる危機です。体が小さい昆虫は、蒸発によって簡単に水分を失って死んでしまう可能性があります。乾燥を防ぐため、活動を停止して発育に適さない環境に耐える事に持てる力を全振りする能力(耐乾性)が、季節変動がある地域では「夏休眠」になり、その能力を寒さに耐える機能(耐寒性)に転用して「冬休眠」へと進化したのではないかと推測されています。