生命誌について
2026.04.30
「内の自然」が気になります
丹藤由希子
『すごい古典入門 レーチェル・カーソン 「沈黙の春」』を拝読しました。『外の自然に対してカーソンが危惧したのと同じことが「内の自然」に対して行われている』という言葉に背筋の凍る思いです。大人の誰もが、仕事だけではなく日常生活でさえ生成AIを使うようになりました。子どもはそれをどのように見ているのか、いつ学校で生成AIを使わされるようになるのか、非常に気になります。農業科を小学校の授業科目に入れてもらうにはどうしたらよいか、なんて考えてしまいます。「内の自然」についての中村先生とカーソンの対談、聞いてみたかったなぁと思います。
2026.05.02
1. 中村桂子(名誉館長)
丹藤様
カーソンの本、お読みいただいてありがとうございます。
彼女が示した別の道を歩んでいたら、今頃豊かな気持ちでいられたでしょうに残念とお思いになりませんでしたか。でも、遅すぎるということはないと私は思っています。幸い、生きもののこと、地球のことが分かり始めているのですからそれを活かせば、一人一人が生き生き暮らす社会はできるはずです。
でも、残念ながら、最近の「AI」ブームは、逆方向へと動いていますね。「内の自然」について、考えなければいけないという指摘を理解していただいて、嬉しいです。「生命誌」にとっては当たり前のことなのですが、同じ感覚を持つ方が現れないのが不思議でもあり、恐くもあります。とくに、子どもは取り返しがつかなくなるでしょうから。小さな力でも、発信はしていきますので、ご一緒に考えて下さい。
中村桂子
2026.05.05
2. かも
春の仕事が一段落しました。1000坪ほどの小さなな土地ですがジャガイモを植え付けて、花苗を植え付けて一休みです。日々山が色づいて今年は例年より10日位早く初夏が進んでいるようです。「沈黙の春」お話が続いていますが少なからず違和感を感じています。以前にも書きましたようにこの本は発売と同じころに読みました。
原書も読みました。カーソンの問題提起について理解できたと同時に当時すでに違和感がありました。確かに間違いなくDDTの空中散布は取り返しのつかない自然破壊をもたらしました。その破壊を見て沈黙の春と形容するのも全くその通りです。
で、当時に、これで自然を制圧できると考えたのも理解できます。そこには毎年繰り返される自然との過酷な戦いがあったからです。農作物を育てる上で、害虫との戦いは最大の悩みです。病菌もあらゆる生産物を台無しにしてしまいます。一度侵入されると作り物が全滅してしまうのです。収入がゼロになり生前が脅かされるのです。化学薬品と肥料で圧倒的な成果を上げて農家に計り知れない安心と安住を与えたのです。増し救いの神であったのです。
でも当時の社会通念として、それが深刻な自然破壊をもたらすことには気づきませんでした。農薬の製造者も販売者も人畜無害しか語らなかったからです。
農薬の生産者も販売者も気づいていなかったからです。
そのことに気づかせて警鐘を鳴らして自然のもろさをカーソンは語りました。時代を経て、農薬も化学肥料も安全が求められるようになりました。自然と闘って自然を制圧しようとする企みもすでに今はありません。
それでも今も普通に農薬は使われているし農薬がなければ農業は成立しません。
農産物が作れなければ人類の生存が脅かされます。自然との共存がさまざまな場面で語られています。生物農薬も、避妊されておすバチの利用もその一つです。
私も農薬はしっかり使います。土壌消毒に塩素の生ガスを使います。土中のバクテリアも微生物もダンゴムシも芋虫も完全に死滅します。それをしなければ連作障害で作物が作れないからです。それでも驚くのは自然の回復力です。消毒した直後にはすべて死に絶えた土中にあっという間に自然が回復するのです。
除草剤もしっかり使います。春には発芽抑制剤を使います。種の発芽を抑えて雑草を増やさない薬です。それでも3月もするとすっかり薬は威力を失ってしっかり雑草は復活します。
水田にも除草剤は必須です。雑草が入り込めば米が売り物にならなくなってしまうからです。
自然を破壊することが悪行なら、自然を守ることも自然界にとっては迷惑行為です。自然界には雑草も害虫もいないからです。雑草とは人間にとって都合の悪いかすであり害虫も人間にとって害虫であるに過ぎないのです。
川を綺麗にすることで海に運ばれる栄養塩となる有機物をすべて奪ってしまっています。自然を守るという人間の傲慢が自然を破壊しているのです。
どんな農薬を作ってもそれが害虫を駆除することに変わりなければこれもまた自然破壊です。
今川を綺麗にしたことで海が痩せています。取り返しがつかない自然破壊です。海が砂漠化してしまうのです。牡蠣もアサリもシジミも珊瑚も海藻も消えてしまいます。温暖化が原因ではありません。温暖化によって海の有機物の消費量が増えたところにその流入が減ってしまったのだから海が死滅するのです。
再生可能エネルギーこそ最悪の自然破壊です。自然界の有機物を燃やしてしまうなど許せません。
化石燃料こそ自然界の完全な余剰有機物です。
それを燃やして炭酸ガスを作れば陸地の植物は繁茂します。それが再び自然の栄養塩になるのです。
見直すのは人間の傲慢です。雑草を一本ずつ手で抜いても自然破壊です。
2026.05.05
3. 中村桂子(名誉館長)
かも様
農作業の毎日からのお考えよく分かります。実業ではない者が、「分かります」などと言うのはおこがましいことですけれど。農薬は、カーソンの時代とは全く違う認識での使用になっていること、それを頭から否定するような考えは現実的でないことも、理解しているつもりです。様々な事情の中で行われている営みに、一律の正解はないのでしょう。
ただ、経済成長(しかも金融で測られる)と力の戦いでの勝利を求めて動いている現在の方向は、カーソンのいう「高速道路」であり、「別の道」へ移る必要があるという思いは大事にしたいのです。「生命誌」では、それを「生きものとして生きる本来の道」と考えています。
そこで、最近、土の研究をもとに行われている「リジェネラティブ農業」の動きに関心を持ちました。これも、それぞれの土地により、様々な問題があり、一律ではないでしょうけれど、世界的にかなり大きな動きになっているので、興味を持っています。
自然に対しては傲慢でないことが基本というお考えは全くその通りです。「高速道路」を突っ走るのは違うというところで、悩みながら考えています。実業からのお考え、聞かせていただくのはとても大事なことですので、これからも、「分からず屋」と切り捨てずによろしくお願いいたします。
中村桂子

