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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【想像を超える日】

金山真紀
 1月です。私がBRHに来てから、1月が巡って来たのは、これでなんと3回目となります。大学4年間を卒業して、前期課程、さらに博士後期課程に進むと合計で(きちんと素晴らしい研究ができれば)大学には9年在籍することになります。長いこと学生ですね。この事実に対して、親にいつも感謝しかありません。
 我がラボの春田先輩は今、就職活動にいそしんでおり、日々実験と両立している姿に感動し、いつも応援したくなります。そんな先輩を見ていると、ふと自分の現状を見回してみることもしばしばです。こんなことを感じだしたのは、11月、岡崎の基礎生物学研究所で行われたシンポジウムThe 8th NIBB-EMBL Joint Meeting Evolution: Genomes, Cell Types and Shapesへ参加した時からでした。
 このシンポジウムに参加するのに先立って、我がラボはケンブリッジ大学の教授、動物学の権威であるMichael Akam氏をお招きすることになっていました(多足類の発生を今メインに研究されており、来日にはムカデ大好きなSICPの山岸さんが興奮されてらっしゃいました)。なんと私たち学生がラボに迎え、シンポジウムの開催地まで案内する役を頂戴したのです。もちろん英語での会話ですから、緊張するのは当たり前。博士後期課程になっているのに英会話できなくてどうするのだというお叱りはあるとは思いますが、私としましてはBBCニュースや英会話のCDを事前に聴いたりして英語の音に触れ、悪あがきに励みました。
 空港でAkam氏を迎える時の緊張感は大きかったのですが、ことが始まってみると、意外にもするりするりと会話もはずみ、行き当たりばったりで進んでゆきました。当日のポスター発表で、Akam氏と自分の研究について色々話しました。興味を持って頂いたのか、深く話を聴いて頂いて逆に彼自身の持つ進化の大仮説を語って頂けたとき、ふと私のような者が、ここにいることを不思議に感じました。有名雑誌に載っている論文や総説でその名前を見たことがある研究者の前で、自分は話をし、談笑している。「大学院生たるもの、一研究者なのだから、そんな気後れしていてどうする」という心の声がするのですが、これは気後れ等ではなく、純粋な感動でした。世界とつながったのかな、という思いがし、一方で、君なんてまだまだだよ、という思いがわき起こります。ネガティブな私の性根が顔を出します。でも、きっと、どちらも正しい思いなのです。まだまだな君が、ポスター発表をし、英語で会話している次元に達したのだから、少しでも成長したのだと、ポジティブに考えた方が得です。この感動を次の研究へと高めようと決意して、この時のシンポジウムは終わりました。
 こういうことを考えてから、ふと自分はこれから先にどこを歩いているだろうかという思いがよぎったわけです。研究者としての道へ行くのか、企業につとめているのか、もしかしたら花屋でお花を売っているかもしれません(12月に父への誕生日の花を購入した際、ふと花屋もかっこいいなと思ったからです)。世間は今不況の最中ですので、さらにそんな思案は深くなります。
 僕一人で考えている世界などちっぽけですし、今は目の前の論文を完成させるために、まだまだ努力しなくてはなりません。
 さて、先日は成人式でしたが、5年前の20歳、私は今こんなクモを使った研究をしているとは想像もしませんでした。想像を超える日など、これからいくつもやってくるのです。2年後、3年後、うまく研究がいって良い論文を書くことができれば、BRHを出るころです。私は何をしているのでしょうか。どう生きているのでしょうか。

 私は今、わくわくしているのです。



[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 金山真紀]

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