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Special Story

共進化する蝶と食草

肉食になった蝶たち:山口進

多くの蝶の幼虫は、主として植物の葉を食べて成長する。ところが、シジミチョウ科のものには、つぼみや花、実を食べたり、はなはだしい例では肉食性の種類がいる。これらの特殊な食性は、どのような過程を経て獲得されてきたのだろうか。

その食性の進化を考えるうえでの手がかりとなる事実は、それらの特殊な食性をもつシジミチョウ幼虫のいずれもが、何らかの形でアリと関係をもっていることだ。アリはシジミチョウ幼虫が出す体液(蜜?)に強く引かれ、幼虫につきまとう。ほかの科の幼虫ではあまり見られないこの特徴は、おそらく次のようにして獲得されたと考えられる。

つまり、一般に幼虫は食べやすい若い葉や芽の部分を食する傾向がある。そこにはアブラムシがいることが多く、シジミチョウ幼虫は葉とともにアブラムシを誤食する。動物性食物を生理的には拒まないシジミチョウ幼虫は、栄養価の高いアブラムシを食べつづけることにより、身体の-部に蜜を出す器官(蜜腺)が発達し、アリを引きつけた。一方、偶然、花やっぽみなどに卵が産みつけられたシジミチョウもいて、葉よりも数段栄養価の高いっぽみや花を食べる機会に恵まれ、蜜腺が発達し、やはりアリを引きつけるに至った―というストーリーが描けるのではないだろうか。

長い長い時間の流れの中で、こうした関係がしだいに発展し、肉食の蝶が進化してきた、と考えられる。その過程で、現実にどのようなドラマが繰り返されてきたのか、それを見極めたいと思っている。

①クララの花を食べるルリシジミ幼虫。花を食べるルリシジミは蜜腺が発達し、各種のアリを引きつけるようになる
②アブラムシを食べるムモンアカシジミ幼虫。この幼虫は、蜜腺から匂いだけを出してクロクサアリを引きつけ、天敵から身を守る
③ワレモコウの花穂を食べるゴマシジミの幼虫。3齢までつぼみを食べ、やがてクシケアリの巣に運ばれ、アリの幼虫を食べて成長する
④ハリブトシリアゲアリにえさをもらうキマダラルリツバメの幼虫。卵から生まれた幼虫は、すぐに特殊なアリに育てられる。蜜腺は成長とともに発達するのであろう
⑤アリの幼虫を食べるオオゴマシジミの幼虫。ヤマアシナガアリの巣の中で育つオオゴマシジミの食料はアリの幼虫。ときとしてアリの巣を壊滅状態に追い込むこともある

①アブラムシを食べるゴイシシジミの幼虫。例外的に、ゴイシシジミ幼虫では、アリを引きつける蜜腺の発達を見ない。そのため身体にロウ物質をつけて天敵から身を守るのかもしれない
②アブラムシの汁を吸うゴイシシジミ。ゴイシシジミはタケノクダアブラムシが出す体液などを吸う
③蜜をアリに与えるクロシジミの幼虫。クロオオアリの巣の中で、幼虫は、頻繁に蜜をアリに与える

(やまぐち・すすむ/昆虫写真家)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

 

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