実験は初めてという虫屋さん。 長崎の社長さんも真剣。 大学では昆虫の生態を研究中。 いよいよオサムシを解剖。説明するのは蘇智慧研究員。 PCR法でDNAを増やす。 画面にDNA配列データが現われる。 オサムシの部屋も見学。

今年で3回目を迎えた、生命誌研究館のサマースクール。これまで中・高生を対象に、DNAを抽出したり、染色体を染めたりと、基礎的な実験をしてきたが、今回は少し違う。

生き物の多様化の仕組みに迫る研究として、当館でオサムシのDNA系統樹づくりが進行中であるが、そのオサムシのDNAの配列を読もうというのだ。最新のDNA解析装置を駆使しての実験は、ヒトゲノム計画を始め、最先端の研究で行なわれている手法そのものである。

全国初のこの企画に、応募者多数の中から選ばれた参加者は、じつにユニークだった。大学院生あり、高校の先生あり、博物館の学芸員あり—キーワードは“虫好き”。

プロの研究者も参加していて、実験は初めてという人を手助けしていたかと思うと、休憩時間に虫の話を始めたとたん、立場が逆転して、教えを乞うたりするから面白い。「昨日フィリピンでの採集旅行から帰ったばかりで……」という社長さんも長崎から駆けつければ、「ロシアで採ってきたオサムシです。お役に立ててください」と手みやげ持参で長野から来た人もいる。まるで日本の虫好きの代表が集まった全国大会のようであった。

つややかなオサムシを愛する虫好きたちが、今、自ら、メスとピンセットを使ってその身体を切り開く。そこで採り出された筋肉の断片が、さまざまな薬品を加えたり遠心分離を繰り返しているうちに、ついには溶けて見えなくなる。それでもチューブの底に目的のDNAがあることを信じて、黙々と作業を続ける。

3日目の朝、徹夜で動いたシークエンサー(DNAの配列を読む装置)の横にあるパソコンの前に集合。ATGCの塩基配列がきれいに4色に色分けされて画面に現れている。このDNAの配列データから、コンピュータソフトを使って系統樹が描けるのである。

最後に、当館でオサムシの研究を中心になって行なっている大津省三顧問のレクチャー。みな食い入るように聞いていた。それぞれの立場での疑問や意見が飛び交い、予定時間を大幅に超過。この新しい試みは成功と言えそうだ。

分子生物学の隆盛により、主流から外れた感のある形態分類学だが、昆虫の世界ではアマチュアがしっかりと支えてきた。今、DNA解析という新たな技術を使って、生き物の多様性のストーリーをひもとこうとする時、彼らによって作られた詳細な形態的分類が貴重な基礎データとしての役割を果たす。

今回のスクールは、今後多くの場所でDNAによる系統解析が可能となるための地盤づくりを狙ったものだ。「希望者に」ということで置いておいたDNA解析用の虫を入れるアルコール入りチューブを手に帰っていった参加者が、これをきっかけに科学の新しい時代を担ってくださることを願っている。