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Special Story

花をつけないシダ植物で花の起源を探る

性染色体を持つ植物-メランドリウム :
松永幸大

野原に咲く可憐な花を見ても、花屋の店頭を飾る美しい花を見ても、みんな雄しべと雌しべを持っている両性花である。一方、動物は私たちも含めて雄と雌は別々の個体である。このように動物と植物では性表現が著しく異なっている。しかし、植物の中にも雄と雌が別々の雌雄異株のものが、全体の数%程度という少数派だが存在している。雌雄異株の植物は、雌雄同株から進化したと考えられているのだが、それはどのようにして起きたのだろう?

その手がかりになるのが性染色体だ。動物ではヒトやショウジョウバエのXY染色体、ニワトリやカイコのZW染色体のように、常染色体と区別できる性染色体が知られている。じつは、雌雄異株植物の一部にも性染色体が観察され、その多くは、ヒトと同じXY染色体型である。つまり、X染色体を2本持つと雌株に、X染色体とY染色体を持つと雄株になる。性染色体にはどのような遺伝子があり、雌雄異株への進化はどのように起きたのか。なぜ多くの被子植物は雌雄異株へと進化せず雌雄同株なのか。性染色体上の遺伝子には性の進化の歴史が刻まれているに違いない。

ナデシコ科の草本植物メランドリウムはXY型の性染色体を持つ雌雄異株植物である。性染色体は常染色体よりも大きく、Y染色体は全ゲノムDNAの9%、X染色体は7%もの割合を占める。形態的に雌雄で異なるのは花だけだが、ホルモンや環境要因で性転換することはない。哺乳類と同じように、性染色体の分配だけで性が遺伝的に決定されており、人為的にX染色体2本とY染色体、X染色体3本とY染色体を持つ植物を作ると、いずれも雄株になる。このことから、Y染色体上には強力な雄性決定遺伝子が存在していると推測されている。

生殖器官である雄花の形成に関わる遺伝子がY染色体上にあるかもしれないと考え、雄株の蕾で特異的に発現している遺伝子を探した。見つかった遺伝子(MROS)は、花粉形成の際に栄養を供給するタペータム細胞や葯(やく)壁、花粉などの雄の生殖器官で特異的に発現していたのだが、残念ながら雌のゲノムにも存在していた。つまり、MROS遺伝子は雄株にも雌株にもあるが、雌株では発現していないのである。Y染色体上にMROS遺伝子発現のスイッチを入れる遺伝子があるのかもしれない。

現在のところ、植物の性染色体上にあって、性決定や性分化に関わる遺伝子はまだ見つかっていない。そのような遺伝子を見つけ、植物の性の在り方について、遺伝子レベルでの理解を進めたいと思っている。

メランドリウムの花と性染色体

雄花(①)と雌花(②)。両方とも白い花で、花びらは5枚ある。雄花は10本の雄しべを、雌花は5本の花柱と1個の子房でできた1本の雌しべを持つ。
③雄株の染色体を蛍光色素で染めたもの。矢印の性染色体は常染色体よりも大きい。
MROS遺伝子の発現。
MIROS遺伝子は4種類あり、この写真はMROS3遺伝子について雄花の蕾で調べたもの。
MROS3遺伝子が発現している(mRNAのある)ところは葯の内側のタペータム細胞で、その部分が青紫色に染まる。左が蕾全体を縦に切った断面、右は葯1個を拡大したもの。(写真=①~④松永幸大)

(まつなが・さちひろ/東京大学大学院理学系研究科生物科学博士課程在籍)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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