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研究館より

表現スタッフ日記

2020.01.15

化学から生命誌(展示案内)へ

高校時代、恩師が講義の初めにして下さったケクレのベンゼン環の夢の話やファラデーのローソクの科学から科学の歴史を知りました。夏休みの補修授業では、金属イオンの系統分析とベンゼンからベークライト合成まで、多種類の実験器具になじみ、実験準備室を解放して下さったので助手の方とラムネや豆腐を作り、何日もかけてミョウバン結晶の家の出来るのを楽しみながら過ごしました。自然に科学系に進学し、漠然とした生命への興味でオパーリンの「生命の起源」、バナールの「歴史における科学」を友人たちと読みながら科学史を学び、錯体化学や触媒化学にも興味を持ちましたが学ぶ内容は無機物理化学の枠の中でした。

子育て中に生命誌研究館のパンフレットが目に入り、美しい扇形の絵巻に魅せられて生命誌研究館を訪れてから20余年になります。絵巻に込められた深い意味を理解できるまでには、その後いろいろな知識の積み重ねが必要でしたが、地球上の多様な生きものたちの歴史と関係が見事に表現されていて、わかりやすいことに感動して立ちつくした時間でした。

開館初期は虫たちを閉じ込めた珍しいドミニカの琥珀が飾られ、オサムシの研究が展示された静かな空間でしたが、研究の成果が次々と展示や映像になり、今も展示物の一部を残す骨と形、光合成、脳の生命誌、共生と共進化・・・と毎年増えて行きました。

展示の内容を案内するのに多くの知識が欲しいので関連する参考書を読むと、遺伝子の実体を知るために量子力学のN.ボーア、E.ラザフォード、M.プランク、E.シュレディンガー、結晶構造回析のW.L.ブラッグそしてL.ポーリングと化学の参考書でなじみのある方々の関わりを知り一度に世界が広がりました。時間をかけて究明してこられた科学研究者たちのことも知りながらご案内したいと目が開けました。

現在は使われていませんが、館内案内のワークシートを作った時期には、生命科学の素人として疑問に思うことなどの意見を研究員に話し、実際に多くの問題例も作ってみました。日々の研究員の作業を手伝いながら見学問、聴き学問した時期に知識も増やせて、あやふやなニューアンスの違いもつかめたように思います。

展示案内に重宝するDNAパネル、「生命誌」という言葉を理解していただくための「生命誌の階段」と「生命誌のお散歩」、チョウの舞う「食草園」は世代を超えての人気スポットです。

新しい展示物が完成すると制作者に内容の解説を受け、展示に込められた背景など来館者にお伝えしたいことを聞いて自分なりのシナリオ作りをします。昨年から研究室のメンバーに研究紹介のための勉強会(貴重な研究資料も提供)を始めてもらいました。こうした恵まれた立場を生かして、来館される方々に喜んで頂ける案内をしたいと心から思います。

1980年代に学生生活を送っていたら、迷いなく生命科学の分野へ進んでいたと思いますが、十代から多様な科学に興味を持ちながらも最後にすべてを生かしながら今も熱中できる「生命誌」へたどり着けた幸運に感謝する毎日です。

渡邊喜美子 (館内案内スタッフ)

表現を通して生きものを考えるセクター