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研究館より

表現スタッフ日記

2020.05.01

「生きもののつながりの中の人間」へ

 BRHは休館を継続し、一部のスタッフをのぞき在宅勤務を行っています。いまできることをそれぞれが考え、WEBを活用した発信などを模索しています。そんな中で、本日季刊「生命誌」102号を発行しました。101号を発行した昨年末には、新型のウイルスが現れて大騒ぎするとは夢にも思いませんでしたが、大きな変化の中で無事に次号を発行できたことがなんだかとても感慨深いです。
 少しだけ、新コーナーResearch & Perspectiveのご紹介を。テーマは「サルの中のヒト・言語をもった人間」です。久しぶりに人類や言語に関わる研究を取材し、ワクワクしながら作業しました。言語の獲得というとヒトの高度な知能と結び付けられがちですが、表情のつくり方や喉の構造など、身体的な条件がヒトの中でそろったことも重要だったようです。詳しくはResearch1をご覧ください。かつて言葉は声であり、声は表情だった、と想像してみると素敵です。「言語の起源」や「文字以前」を理想化したいわけではありません。言葉を流麗に使えなくてもいい、その時の思いをただ素直に言葉にできたらいいんだと教えてくれるようです。
 現在の人類は多様な言語をもっています。民族が違えば言葉も違うのは当然のように見えますが、異なる集団の間でDNAは均等に混ざり合うことができても、言葉が均等に混ざり合うことは考えにくいですよね。言葉の歴史と集団の歴史がどのようにかかわっているのか、北東アジアを舞台に、DNAと言語、さらに音楽のデータ解析からせまります。Research2をご覧ください。北東アジアに多様な言語をもつ民族が暮らしていることを私は知りませんでしたが、それぞれの文化がとても魅力的です。
 自分が属しているのはどんな民族なのか、話している言語はどのような由来なのかに関心のない人はいないでしょう。ただ一口に日本人といっても、その遺伝的な背景は地域や時代によって少しずつ違っていることがDNA解析から分かってきています。PerspectiveではDNAから人類の歴誌を探りつつ、言語や文化の歴誌にも視野を広げて日本列島を捉えます。日本に住む人々の多様性と、周辺の地域とのつながりを知れば知るほど、国や言語の境界はどんどんあいまいになり、時空間的な視野が広がっていくのを感じました。
 生きものとしてのヒトと、言葉をもつ人間という視点を重ねると、同じ国に住んでいても誰一人として同じゲノムをもってはいませんし、どんな言語圏に住んでいても、言葉をどう用いるかはその人次第です。一人ひとりが新しい生きものであり、新しい文化なのだということをあらためて感じます。