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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2020.12.15

一番難しい数独?

何を隠そう、昔から数独が大好きで、雑誌や新聞に載っているのを見つけたら必ず鉛筆をとり出します。『難問500題』などというのを買って解き始めると止まらなくなるので、それはなるべくしないよう努めてはいますが、パズルの中では一番好きです。本のタイトルに『ナンプレ』と書いてあるのはなぜだろうと思っていたら、2021年1月号の『ニュートン』の『奥深い数独の世界』という記事に説明がありました。1979年にアメリカの雑誌で「ナンバープレイス」としてまさに数独と同じパズルが掲載されたのですが、まったく人気が出ず、すぐに姿を消したのだそうです。

1984年になって、日本のパズル誌がそれを見つけ、「数字は独身に限る(数独)」として載せたところ大反響で、今や「sudoku」として世界に広まっているというのです。なぜ最初アメリカでは見向きもされなかったのか、その後日本発になったら世界に広まったのはなぜか。わかりませんが、日本人である私が大好きなことは確かなので、発信に思いがこもっていたのかもしれません。

数独について書き始めたのは「ニュートン」に興味深い記事があったからです。「コンピュータを使ってつくった世界一難しい問題」です。コンピュータが通常用いる「バックトラッキング法(可能な組み合わせをしらみつぶしに調べる)」で解くと数万回もの計算が必要な問題であり、人間に解けるわけがないと考えられたのです。ところがこの問題、解いてみたら呆気なく解けました。決して私が優れているのではなく、実は旧題の脇に「人間にとっては簡単とわかった」と書いてありました。

コンピュータと人間とは違うのです。ですから本当に世界一の難問をつくるには、人間の思考をアルゴリズムに落とす必要があるのですが、これは今のところできませんし、かなり難しい話とされていると書いてありました。人間とコンピュータは違うからこそコンピュータの利用価値があるのであって、コンピュータと競争したり、これに敗けることを恐れたりするのは間違っているということがここからもわかりました。

今年も終りですね。4月から東京での仕事になることが決まった時は、月に1度ほどは高槻で皆と話し合う機会を持ちながら「わたしの今いるところ、そしてこれから」を考えようと思っていました。ところがコロナ騒ぎでテレワークになり、自宅での時間が多い一年になりました。しかも人間は生きものですから、生きものとして充足した暮らしのできる社会にしましょうという生命誌の提案がCOVID-19パンデミックの体験後を考える人々に受け入れられ、それへの対応が忙しい年になりました。気づいて下さるまでに時間がかかりましたが、よい方向に動くとよいなと思っています。来年は皆が気持よく暮らせる年になることを願っています。よいお年をお迎え下さいませ。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶