1. トップ
  2. 語り合う
  3. 研究館より
  4. 同じ空気を吸うところから広げる「私たち」

研究館より

中村桂子のちょっと一言

2021.03.01

同じ空気を吸うところから広げる「私たち」

一日のうちのかなりの時間を、本を読んだり文章を書いたりして過ごしていますが、書斎はおろか専用の書き物机も持っていません。このような生活を始めたのが、結婚、子供の誕生と重なったからです。おむつを替えながら、離乳食をつくりながらの合間に本を読むのですから、一番便利なのは食卓です。書斎に入り込んでいる暇などありません。

子供が少し大きくなってからも、隣でお絵かきをしていてくれれば安心ですからやはり食卓です。小学生になって宿題をする頃には、大きな丸テーブルを食卓にし、家族揃って書いたり、読んだり。閉じた空間が苦手ということもあってその習慣が今に続いています。研究館にいた時も部屋のドアを閉じたことがありませんでした。

最近は、会議やシンポジウムに専らオンラインで参加していますが、これも実は食卓でやっています。会議中は参加メンバーと空間を共有していることになっていますが、実際に傍にいるのは家族です。面白いことに、コンピュータのカメラから20センチほどはずれると、私は会議の空間からはいなくなり、家族との空間に存在することになります。その場合、音声を切ってしまえば会議のメンバーには私がどこにいるかが全くわかりません。私は会議に参加している時にほとんど同じ状態でいるのに、会議では、カメラを通しての映像だけが私なのです。実際、会議の始まる前の雑談の時間に何度か体験しました。やはり、ちょっと不思議な関係ですね。

オンラインでの会合は、遠くの方とも気軽に話し合えて便利です。大いに活用したいと思います。でも、同じ空気を吸うことの大切さは忘れないようにしなければなりません。実感のある「私たち」感覚を身に着けて、それを広げることが大事だと、だんだんオンラインに慣れていく自分に向かって話しかけています。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶