1. トップ
  2. 語り合う
  3. 研究館より
  4. 植物・グリーンにこだわるのは

研究館より

中村桂子のちょっと一言

2021.09.15

植物・グリーンにこだわるのは

植物の力を改めて考えたり、農水省のグリーン農業に眼を向けたりするのは、「脱炭素」という言葉に危うさを感じないではいられないからです。

二酸化炭素の排出を抑えようというのはその通りですが、競争してお金儲けをした人が勝ちという価値観が変わらない中でエネルギー技術開発競争が起きているのが気になります。脱炭素でなく、「炭素でできた生きものを活かしましょう」であるはずなのに、人間中心で他の生きもの支配の感覚はそのままに新技術開発が行われるのでは、答えは出てこないと思うのです。自然界のバランスは大丈夫かなと心配になることが度々です。

生きものたちの中で人間独自の技術を持つ暮らしに入ったのは農業革命からなので、やはりこの時の意識から考え直す必要があると思い、家畜化の歴史を書いた本を読んで、ここから生き方の選択について考えました。3.5万年前にオオカミからイヌが生まれて以来ですから、家畜化の歴史は長く、人と生きものの関係として興味深いものがあります。そこでも、近年科学技術化が急速で、最近はゲノム編集、クローン作成などの技術が盛んに使われています。ポロ競技場ではクローン馬が駆け回り、バーブラ・ストライサンドが愛犬のクローンを作ったなどの記述に考え込みました。人間の勝手さがこれまで以上に出て来ている気配は否めません。

人間は生きものの仲間ということを再確認し、植物や動物などさまざまな生きものを見る時の支配のまなざしを考え直すところから始め、価値観の見直しが不可欠と、改めて思った次第です。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶