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研究館より

表現スタッフ日記

2021.10.15

風土に立つ

関西は夜まで蒸し暑い日が続きましたが、ようやく秋だなあと感じられる気温になってきました。7月に始まった企画展示「食草園が誘う昆虫と植物のかけひきの妙」は、今秋新しく設置した食草園の展示と共に、季節が変わっても多くの方に楽しんでいただいています。

企画展示の一角に流れている、永田和宏館長と奥本大三郎先生の語り合いの映像は、展示の締めくくりにぜひご覧いただきたい作品です。季刊「生命誌」106号で訪れた東京・「虫の詩人の館」での対談の収録をまとめたものです。ファーブル昆虫記の翻訳者であり大の昆虫好きである奥本先生は、世界各地の自然をみるうち、虫も鳥も、そしておそらくそこの人が作るものやものの考え方も、風土の色をしていることに気付いたと語られています。

風土とは、気候や地質や生きものや、それらの相互作用で形作られる複雑な作用を意味するのだと思いますが、明確に何を強制するわけでもなく禁じるわけでもないのに、そこに住むものに強くはたらきかけ、人も生き物も自ずとその姿形をしているという指摘に、色々と気づかされるものがありました。日本らしさとは、BRHらしさとは、自分らしさとは…と、私は何を表現するときも、何重ものアイデンティティに囚われて悩むのですが、心配しなくても、風土に立てば何度でも、どこでも、新しい表現・新しい文化が生まれるのだろうと思うと、悩みをわくわくする気持ちに変えられる気がするのです。日本文化として、生命誌研究館として、私という人間として積み上げられて来たものは、ある意味風土が育んできたものであり、伝統として無理やり着るのではなく、今を犠牲にして後に残すものでもないのでしょう。今を生きるとき、ごく自然に身にまとっているものがきっと、ひとまずの答えなのだ…と信じたいと思います。

自然の中の、生きもののありのままの姿は、いつも思わぬ気付きをくれ、ときに、悩まなくていいよと教えてくれます。じっくり生きものに向き合って、その小さな小さなメッセージを聴き逃さないようにしたいと思います。さて、秋には展示や食草園の生きものが登場する映画の上映を行います。私たちの身近な生きものが登場します。彼らがどんな風土をまとって、どんな色を醸し出しているか…映画も展示も、ぜひご覧ください。