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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2021.11.16

自然に眼を向けるという基本しかないのでは

英国でCOP26首脳級会議が開かれています。地球温暖化について、しばらく前までは温暖化はしていないとか、もししているとしてもその原因は人間活動ではないなどという声が少なからず聞こえていましたが、今や各国が温室効果ガス排出ゼロの目標値を示す時代になりました。欧米は2050年までに排出ゼロ、中国とロシアは2060年までと、各国が明確な数字を示しています。今回インドも2070年には同じくゼロにするとかなりの期間をとってはいますが、とにかく排出ゼロを目指す国の仲間入りをしました。総選挙を終えた岸田首相も駆けつけ、日本がリーダーシップを発揮する意気込みを見せました(「化石賞」という不名誉に浴してしまいましたが)。

これだけの動きがあるのですから、もちろん企業も動いています。これだけを見ると、社会はよい方向へ向かっているように思えますが、なぜか期待が湧きおこってはきません。

各国の覇権争いが続き、企業の大型化は相変わらずですし、戦争を止める方向などまったく見えません。排出ゼロという思い切った方向転換には、どの国がお金をどれだけ出すかという話だけでなく、人々が意識を転換して社会のありようを変える動きが不可欠なのではないでしょうか。相変わらずの進歩・拡大指向を見ていると、これまでより歪んだ社会になりそうな気さえします。グローバルと言いながら地球に対して責任を持とうとする国はどこにもなく、利益誘導の権力争いは激化していますから。

今年になって、光合成に注目しながら自然を見直す中で、突如「村」について考えるなど、一見ふらふらとしているように見えるかもしれませんが、生命誌としてこれからの社会を真剣に考えなければならないという気持ちの表れです。ここで大事にしたいのは、「自然をよく見る」と「進歩ではなく進化」ということです。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶