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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2022.04.01

帰り道は違う景色が見えた

横浜市が2027年に「国際園芸博覧会」を催します。1990年に大阪で開催された「国際花と緑の博覧会」と同じ位置づけの博覧会国際事務局に認定を受けたものであり、横浜市としてはかなり力を入れています。1990年はちょうどBRHの構想が生まれた時であり、当時「花と緑」のお手伝いをしながら研究館を創ることになったらどんな場にしようかと具体的な形を考えていたのでした。

それから30年。「幸せを創る明日の風景」というテーマで開催する横浜の博覧会の準備を始めた担当者たちが構想を練るにあたってBRHを訪れたと聞いて昔を思い出し、感じるところがありました。しかも嬉しいことに「研究館を出ての帰り道は行く時とどこか違う景色が見えるようになりました」と言われたのです。

その状態でインタビューを受けることになり、1時間ほどオンラインで私なりの願いを語りました。終わった後に「こんなことを言っては失礼かもしれませんが、本当に楽しかったです。時間が短くて残念です」と言われ、これも嬉しかったです。市の方たちとしては、公的な形でのインタビューの感想に楽しかったと言っては失礼だと思ったのでしょう。でも私にとってはこれが一番嬉しい反応です。

BRHは「ここに入ると、何かわからないけれど他とは違う空気を感じます」と言われる場であって欲しいと思っていますし、ありがたいことにそう言って下さる方が少なくありません。そこには楽しかったということも含まれているはずです。教えるとか、貢献するとかいう意識はありません。本当に大事と思うことを一緒に楽しむ状況をつくりたい。それだけを考えてきました。それにはいつも頭のどこかに生命誌があるという状態が必要でした。横浜市の方にも、四六時中どこかで博覧会のことを考え、御自分が面白いと思うことをやって下さいとお願いしました。どうなるか分かりませんが、景色が変わって見えたところを是非生かして欲しいと思っています。そこでは何かの形で生命誌が活かされるだろうと期待しながら。

P.S. 今日、世界中のリーダーが武器のために使ってきたお金を子どもたちの食事と本とスポーツ用具と楽器と……とにかくすべての子どもが楽しい日々を送るために使うことに決めたそうです。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶