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研究館より

表現スタッフ日記

2022.04.01

近くて遠いトカゲのなかま

トカゲというと思い出すのは、トカゲの尻尾切り。これは組織などが本体を守るために誰かに責任を押し付ける比喩として使われますが、トカゲの尻尾はしばしば目立つ色彩で目を惹き、切れた後も動きまわって捕食者を呼び寄せる、頼れる味方と言えます。日本で日常的に見られる数少ないトカゲであるニホントカゲの尻尾の鮮やかなブルーは、若い個体が尻尾を犠牲に生き延びる仕掛けと考えられています。最近、Scienceの論文*1で、トカゲの自切する尻尾の切断面の構造を電子顕微鏡で調べた論文が発表されました。尻尾には骨の継ぎ目に合わせて切れる位置が決まっていて、そこで切れた断面を見ると尻尾側に8本の突起がでており(キノコ状と表現されています)、体側にはそれが収まる穴が空いている、つまりソケットとプラグの関係で、予め外れるようになっているというのです。まっすぐに引っ張る力に対しては、締め付けあって取れにくくなり、横むきの力では簡単に折れるしかけです。どのようにそんな構造が進化してきたのか、その巧妙さに驚かされます。

今年の紙工作のテーマは「近くて遠いトカゲのなかま」です。どんなトカゲを思いつきますか、イグアナ、コモドドラゴン?恐竜を考えた人もいるかもしれませんが、恐竜はトカゲよりワニに近く、鳥のご先祖様です。身近なところでは、先ほどのニホントカゲ、108号に登場したニホンヤモリもトカゲのなかまです。分類では有鱗類、ヘビと同じグループで、実は陸上脊椎動物(羊膜類)の中では最大グループで11,300種が記載されています*2。同じ資料で哺乳類は6,025種なので、2倍近くの種類がいることになります。進化をたどると、羊膜類の祖先ー爬虫類ー哺乳類という順序かと思いがちですが、哺乳類に進化した「爬虫類」とトカゲを含む「爬虫類」は、羊膜類が現れてすぐ3億年以上前に分かれ、そちらから恐竜や鳥も生まれました。そして鳥も1万種以上の大きなグループですから、多様性を育むポテンシャルはお隣の「爬虫類」の方が優れていると言えそうです。

一方で、生物多様性が危ぶまれる昨今において、有鱗類はその多様性ゆえに危機に瀕していると言われています。気候変動や生息地の人為的な破壊などが大きな原因ではありますが、ペットとして輸入される数が多く、種の多さから保護対象として指定されず密輸されるケースもあるようです。野生の生きものの生きかたは、人間の欲望など知りませんので、捕獲も危機を招くでしょう。日本で記載されている有鱗類はわずか85種、日本は島国で移入しにくいこともありますが、四季の温度差が変温動物には暮らし辛いのかもしれません。トカゲのなかまは、生きものとしてはお隣のグループですが、遠くにありてその繁栄を祈るのがよさそうです。

「ー近くて遠いーを身近に感じていただける紙工作を」とペーパーエンジニアの坂啓典さんと策を練っています。どうぞお楽しみに。

*1 Biomimetic fracture model of lizard tail autotomy. Science.18;375(6582):770-774
*2 Catalogue of Life

平川美夏 (全館活動チーフ)

表現を通して生きものを考えるセクター