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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2022.06.01

生命誌の広がりを活かすとき

昨日は「りんごの木」(代表は柴田愛子さん)という保育について考えるグループの方たちと小渕沢にある「ぐうたら村」へ行ってきました。村は、森の案内人であり写真家である小西貴士さんの活動の場です。柴田さんと小西さんが、活動の中で子どもたちのこれからを考えると分からなくなることが多いのだけれど、私が「生命誌」について書いたものを読むと、これなんだよという答えが見つかると言って下さいました。そこで、森と畑が広がりその先に富士山が見える(はず。実際は雲に隠れていました)気持ちのよい場での一日を共に過ごし、お話し合いをしました。辺りに生えている草をついばみながら、時々コケコッコーと鳴く烏骨鶏の卵が暖かいのです。こんな卵に触ったのはいつのことだったでしょう。これからもお二人とのおつき合いは続きます。

帰宅後、お友達が興奮した声で電話をくれました。大阪で行われた坂東玉三郎さんの「お話と素踊り」に行ったら、そこで玉三郎さんが「生命誌の中村桂子さんがこう言ってると話さはったのよ」という報告です。先日、機会があってお話をした時に、「今の社会は未来を考えることが難しいけれど、絶望してはいけないので、一人一人ができることをしていくことですね」ということで意見の一致を見て、そこに生命誌を生かそうとなったのです。

夕方、郵便で届いた雑誌のドリアン助川さんの連載『動物哲学童話』(愛読しています)では、オオアリクイのぺロリン君が、原始細胞に始まる38億年の歴史を思いながら「頭がよくても、殺し合いをやめられない生きものもいます」と言います。早速、この生きものは本当に頭がよいのでしょうかという問いを、ペロリン君、つまりドリアンさんにメールで送りました。私の本を読んで「生命誌を生かして書きますよ」と言って下さっているので、次回が楽しみです。

保育、自然教育、舞台、小説と、科学だけで考えていたのでは決して広がらない世界を作って下さる方たちは本当に大事です。すべてが生命誌です。

絶望しないで、とんでもない殺し合いなどしない社会へ向けて何かをしていくことで、子どもの笑顔がたくさんになりますように。そう思いながら、いつになく豊かな気持ちで床に着きました。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶