1. トップ
  2. 語り合う
  3. 研究館より
  4. ほんとうの力はどこに

研究館より

中村桂子のちょっと一言

2022.12.01

ほんとうの力はどこに

このところこのコラムで紹介している矢野さんや高田さんなど、自然そのものを見て行動している方たちの力を感じる機会が多く、よい流れだなと思っています。その他にも今、お手紙交換をしている小西貴士さんは、八ヶ岳の麓にあるぐうたら村で森の案内人をしたり農業をしたりして、自然の力を活かす生き方を探っている方です。お手紙に幼い人たちと一緒に森の中を歩いた時の様子を書いて下さったのですが、そこにも頼りになる力を感じました。子どもたちが小さな流れの中に落ちているサルナシを大騒ぎしながら食べる時の様子には生きるエネルギーが溢れています。残念ながらサルナシを食べたことがないので余計に羨ましく、このような体験の大切さを思います。

一方で新聞に「東京の中心5区に暮らすお金持ちが、自分たちが地方の人たちを支えているのであり、そんな足手まといは振り払って独立しようという運動を起こす可能性がある」というネット記事が紹介されていて驚きました。私はネットとは無関係の暮らしをしていますので、紹介された記事の詳細は分かりませんけれど、お金など、まさに虚構でしょう。水、食べもの、エネルギーなどなど、実生活を支えるものが地方から来なくなったら暮らしは成り立たなくなることに思いを致すこともできない人たちがいるのですね。地方なら、いざとなったら原っぱや川の中にだって食べ物がありますけれど、高層ビルの中では無理でしょう。生きる力は感じられません。金力や権力は本当の力ではないことに気づかずに、地方を足手まといだなどという愚かさには呆れます。たまたまたくさんのお金をもったためにそんな愚かな人になったのだとしたら、お気の毒です。

ホモ・サピエンスなのですから賢くしなくては。これからはほんとうの力をもつ人たちが動かしていく社会にしたいですし、そうなる予感がします。生命誌はそれを支える知として役立ちたいと思っています。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶