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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2023.02.15

改めて「生きものとして」という言葉を

先回の続きです。

今日は、『土中環境 忘れられた共生のまなざし、蘇る古の技』という本を書かれた高田宏臣さんとお会いしました。高田さんも矢野さんと同じように、水と空気の道の大切さを実感し、それを生かした土木を実践している方です。「生命誌絵巻」と「私たちの中の私」が御自身のお仕事の基盤になると思っているので、是非話したいとお申し込みがあったのです。矢野さんは矢野さんのお仕事の中で自分の道を見出したのですし、高田さんも独自の道を歩いている方です。でも、お二人共生命誌が支えになると感じて下さっていますし、私の立場からは、お二人は同じものを見て同じことをやろうとしている魅力的な方です。「自分で独自の道を切り拓いた方たちが、実は同じものを見ている。なぜなら、見ているのは自然の本質だから」。生命誌から見るとこうなりますので、私の役割は、それぞれを尊重しながらそれらをつなぎ、更にそれを広げていくお手伝いをすることです。

高田さんとお話しをしていて見つけたことがあります。高田さんは御自身の仕事をもっと一般化したいという願いを持ち、それを「環境土木」として考えています。一律に開発して大きなものをつくるのでなく、それぞれの土地を生かす道をつくり、建物をつくる。それがこれからの土木だという考えは、その通りです。でも「環境土木」という言葉が私にはしっくりきませんでした。そこで矢野さんや高田さんの活動を的確に表現する言葉を考えているうちに、絵巻の中にいる人間の行為としてやっているのだから、これは「生きものとしての土木」だと思えました。そうしたら「生きものとしての政治」、「生きものとしての経済」、「生きものとしての教育」……人間の活動がすべてそうであればよいのではないかと思えてきたのです。ヒトという生きものがもつ想像力、共感力などを生かし、そこから生まれた学問や技術を活用した「生きものとして」活動すればよいのだと。
「生きものとしての土木」。高田さんはそうですねえとおっしゃってメモなさいましたが、これからどうなるでしょう。いずれにしても、生命誌としてはこれを考えて行こうと思っています。そこでは戦争は起こらないはずです。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶