表現スタッフ日記
2025.05.01
ナナフシの交尾と奇妙な行動(産卵?)
表現セクターの一員になって一年を過ぎたところです。恒例の桜の通り抜けが終わり、それを追うようにBRH北側にあるツツジが咲き始めました。毎日歩いている道沿いの動植物を見ながら季節の移り変わりを感じています。
BRH一階の展示ホールに大きなナナフシの展示ケースがあることはご存知でしょうか。中にいるのはヤエヤマトガリナナフシEntoria ishigakiensisという種で、日本では八重山諸島に生息しています。今回はこのナナフシについて書いてみたいと思います。この展示ケースの中のナナフシはこれまでに、おそらく何度となく見てきましたが、いつ見てもその数の多さに驚かされ、良い研究材料になりそうだなと思っていました。仕事場を表現セクターに移してから、そのナナフシを時間かけてゆっくり、じっくりと観察する機会がありました。そこで初めてナナフシの交尾行動を見ることができたのです。
ヤエヤマトガリナナフシのオスとメスは、成虫になれば一見して区別することができます。メスは緑色をしているのに対して、オスは褐色です。また、メスと比べてオスはやや小さく細長い体をしています。もっとも区別しやすいのは、腹部の先端(お尻)の形態で、メスのお尻はとんがっているのに対して、オスのお尻は交尾する際にメスを掴むための鋏構造をしています(図1)。こういう雌雄の特徴はほかの多くのナナフシにも共通しています。
図1:ナナフシのメスとオスでの腹部先端の形状の違い
ナナフシの仲間では、単為生殖(メスだけで繁殖する)を行う種が多く知られており、オスを発見することさえ極めて稀である場合もあります。したがって、野外ではナナフシの交尾を見る機会はなかなかありません。しかし、BRHで展示しているヤエヤマトガリナナフシは有性生殖を年中行っているだけでなく、たくさんのオスとメスが常に出会える状態になっているため、ナナフシの交尾シーンに出会う確率はかなり高いです。ナナフシの交尾行動は、図2の写真に映っているように、オスとメスが逆方向になって、オスが腹部先端の鋏構造を使って、メスのお尻の部分をがっちりと掴んで行います。交尾時間は比較的に長く、私が観察した時は3時間以上も続きました。

図2:交配中のナナフシのペア
それから、もう一つヤエヤマトガリナナフシの奇妙な行動を観察しました。フィギュアスケートの技の一つであるイナバウアーをご存知でしょうか。とても美しい技ですが、ヤエヤマトガリナナフシはまさに極端なイナバウアー技を見せてくれたのです。お尻を背中の方に180度曲げて、頭の前に持ってきます。その状態でお尻の先端をケースの底に溜まっている一層の糞の中に何度も挿しながら何かを探っているような様子でした(図3)。産卵場所を探しているのでしょうか。もしそうだとしたら、ヤエヤマトガリナナフシは自分の目の前で卵を産んでいることになります。産卵場所を自分の目で確認するために、そのような格好で産卵するように進化したのでしょうか。
図3:産卵中のナナフシのメス
生き物をじっくり観察すると、きっと新しい発見があるのだと改めて思いました。今後もナナフシのことを紹介していきたいので、その続きをご期待いただければと思います。皆さんもぜひナナフシのことをじっくり観察してみてください。
BRH一階の展示ホールに大きなナナフシの展示ケースがあることはご存知でしょうか。中にいるのはヤエヤマトガリナナフシEntoria ishigakiensisという種で、日本では八重山諸島に生息しています。今回はこのナナフシについて書いてみたいと思います。この展示ケースの中のナナフシはこれまでに、おそらく何度となく見てきましたが、いつ見てもその数の多さに驚かされ、良い研究材料になりそうだなと思っていました。仕事場を表現セクターに移してから、そのナナフシを時間かけてゆっくり、じっくりと観察する機会がありました。そこで初めてナナフシの交尾行動を見ることができたのです。
ヤエヤマトガリナナフシのオスとメスは、成虫になれば一見して区別することができます。メスは緑色をしているのに対して、オスは褐色です。また、メスと比べてオスはやや小さく細長い体をしています。もっとも区別しやすいのは、腹部の先端(お尻)の形態で、メスのお尻はとんがっているのに対して、オスのお尻は交尾する際にメスを掴むための鋏構造をしています(図1)。こういう雌雄の特徴はほかの多くのナナフシにも共通しています。

図1:ナナフシのメスとオスでの腹部先端の形状の違い
ナナフシの仲間では、単為生殖(メスだけで繁殖する)を行う種が多く知られており、オスを発見することさえ極めて稀である場合もあります。したがって、野外ではナナフシの交尾を見る機会はなかなかありません。しかし、BRHで展示しているヤエヤマトガリナナフシは有性生殖を年中行っているだけでなく、たくさんのオスとメスが常に出会える状態になっているため、ナナフシの交尾シーンに出会う確率はかなり高いです。ナナフシの交尾行動は、図2の写真に映っているように、オスとメスが逆方向になって、オスが腹部先端の鋏構造を使って、メスのお尻の部分をがっちりと掴んで行います。交尾時間は比較的に長く、私が観察した時は3時間以上も続きました。

図2:交配中のナナフシのペア
それから、もう一つヤエヤマトガリナナフシの奇妙な行動を観察しました。フィギュアスケートの技の一つであるイナバウアーをご存知でしょうか。とても美しい技ですが、ヤエヤマトガリナナフシはまさに極端なイナバウアー技を見せてくれたのです。お尻を背中の方に180度曲げて、頭の前に持ってきます。その状態でお尻の先端をケースの底に溜まっている一層の糞の中に何度も挿しながら何かを探っているような様子でした(図3)。産卵場所を探しているのでしょうか。もしそうだとしたら、ヤエヤマトガリナナフシは自分の目の前で卵を産んでいることになります。産卵場所を自分の目で確認するために、そのような格好で産卵するように進化したのでしょうか。

図3:産卵中のナナフシのメス
生き物をじっくり観察すると、きっと新しい発見があるのだと改めて思いました。今後もナナフシのことを紹介していきたいので、その続きをご期待いただければと思います。皆さんもぜひナナフシのことをじっくり観察してみてください。
蘇 智慧 (研究員)
表現を通して生きものを考えるセクター