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研究館より

表現スタッフ日記

2025.08.19

生命誌を高校の生物に

最近、全国各地の高校生の皆さんが生命誌研究館を訪ねてくださいます。私は研究館でガイドを始める前、高校で生物を教えていました。ガイドとして高校生の皆さんを案内するうちに、生命誌を軸にした科目があるといいのではと思いつきました。

現在の教育課程では、「生物基礎」という科目が必修科目の一つになっていて、かなりの高校で履修されています。「生物基礎」では、DNAなど現代生物学の基盤となる内容(細胞の構造・遺伝子の働き・遺伝情報の発現など生物の基本的な仕組み)、ホルモンや免疫など健康にかかわる内容(体内環境・恒常性維持の仕組み)、生態系など環境の科学的な理解に資する内容(さまざまな生態系の種類や特徴・生態系における生物の関係・環境問題など)を学びます。また、学習指導要領には「生物や生物現象が多様であることを踏まえつつも,それらに共通する生物学の基本的な概念や原理・法則を理解させること、共通性と多様性という二つの視点を理解するためには,その前提として,現存している生物は起源を共有しているということを理解しておくことが大切である」と記載されています。

一つ一つの内容は大事であり、興味深い内容ではあるのですが、生物を学ぶ上では一貫性に欠けていると教えているときに感じていました。進化と発生に触れられておらず、体内環境・恒常性は保健の内容と重なり、最後の生物の多様性と生態系での日本や世界の多様な生態系の紹介は、地理と重なる部分が多くあります。一つ前の教育課程の科目「生物」では、細胞→個体→生物の集団(個体群→生物群集)という流れで生命がとらえられ、そこに遺伝子・発生・進化の話も加わって、トータルに生物について学べるようになっていましたが、この科目は理系で生物を受験科目とする生徒が主に履修するものになっていました。

生物基礎の目標に、「学習した内容が日常生活や社会とかかわることを示すことで,生物や生物現象に対して興味・関心を高め,生物を学習する動機付けとする」と書かれています。生命誌を軸にした科目なら、「『人間は生きもの、自然の一部』という認識を持ち、人間も含めた様々な生きものたちの生きている様子を見つめ、そこからどう生きるかを探す」というのが目標になります。生きものである私が、生きもののことを考えるのに動機づけはいりません。

生命誌を軸にした教科書の構成としては、細胞やゲノムDNAの基本的なことを学び、そこから発生・進化・生態系に学習内容を繋いでいく。実験観察では、細胞の観察やDNAの抽出といった生物基礎で行われているものに加え、様々な生き物を見つめる(観察する)ことを行う。探求学習として、生命誌を学習した私たちはどのように生きていくのがよいかを議論する……。

ふと思いついたことなので、そこから先はまだ頭が追い付いていませんが、科目「生命誌」は、絶対に楽しく、面白く、誰もが学ぶ必要のある科目になると思います。