中村桂子のちょっと一言
2025.09.02
夏休み最後の週の読書感想文 ―優しい宇宙に感謝してー
八月も最後の週になりました。相変わらずの猛暑ですが、さすがに朝夕の風は秋を感じさせ、暗くなると蟲の声もしますし、昼間のセミにはツクツクホウシが混ざります。
夏休みも終わりで、やり残した宿題をなんとかせねばと思っている子もいるのかなと思います。私の今年の夏休みは「ゆっくり読書」で過ごしたのですが、最後の週にもう一冊、どうしても読みたい本に出会いました。夏休みの読書感想文はこれにしようと思って読んでいます。
正直、簡単な本ではありません。タイトルは『宇宙・時間・生命はどのように始まったのか?』です。著者はT・ハートッホ。車椅子の物理学者、S・ホーキングの名前は御存知ですよね。『ホーキング宇宙を語る』という本を今から30年以上前、生命誌を始めようとしていた頃に読んだのを覚えています。宇宙論の佐藤勝彦さんが話し相手になってくださったので、ビッグバンとかインフレーションとか、宇宙は一つではなくたくさんあるとか、ブラックホールとか……難しいのですが、ちょっとワクワクする楽しい時間でした。
ハートッホはホーキングの最後の弟子であり、先生に『宇宙を語る』は間違っていた、新しい宇宙論を考えなければならないと言われて、共に考えた50歳です。先生は亡くなり、遺志を継いで仕上げたのがこの本です。詳細を書く余裕はないのですが、ビッグバンは「時間の始まり」であるだけでなく、「物理法則の起源」でもあるというのが基本です。絶対の法則があってそこから宇宙が生まれたのではなく、宇宙と共に法則が生まれてきた、しかもそれは生きものと同じように進化してきたというのです。「ダーウィンの進化論と宇宙論はつながっている」とあります。今私がいる宇宙ができてきた過程を見ると、生きものが存在し得る「生きものに優しい宇宙」になってきたことが分かるという話です。
著者は「ホーキングは、ニュートンの数学的厳密さとダーウィンの私たちは深い意味で一つであるという思想の橋渡しをした」と言います。ホーキングの遺灰はウエストミンスター寺院のニュートンの墓とダーウィンの墓の間に埋められたとのこと。「みんなが自分の存在を宇宙的な視点から捉え、悠久の時間にあてはめて欲しいとホーキングは願っており、これが、科学と人間性とに根ざした新しい世界観になるだろう」という最後の文は、心に響きます。「また勝手なことを」と言われそうですが、「宇宙論」は「宇宙誌」になりました。「生命誌」はまさにその中にあります。今のところ地球外文明はないのですから、私たちが地球という星を故郷とする、優しくて賢い存在として生きなければ、折角私たちを生み出してくれた宇宙に申し訳ないことになります。
「生命誌研究館」は、宇宙ともつながる「生命誌」へと一歩を進め、新しい「世界観」を示していく場になったというのが、夏の終わりの思いです。暑さの中ですが爽やかな気分です。
夏休みも終わりで、やり残した宿題をなんとかせねばと思っている子もいるのかなと思います。私の今年の夏休みは「ゆっくり読書」で過ごしたのですが、最後の週にもう一冊、どうしても読みたい本に出会いました。夏休みの読書感想文はこれにしようと思って読んでいます。
正直、簡単な本ではありません。タイトルは『宇宙・時間・生命はどのように始まったのか?』です。著者はT・ハートッホ。車椅子の物理学者、S・ホーキングの名前は御存知ですよね。『ホーキング宇宙を語る』という本を今から30年以上前、生命誌を始めようとしていた頃に読んだのを覚えています。宇宙論の佐藤勝彦さんが話し相手になってくださったので、ビッグバンとかインフレーションとか、宇宙は一つではなくたくさんあるとか、ブラックホールとか……難しいのですが、ちょっとワクワクする楽しい時間でした。
ハートッホはホーキングの最後の弟子であり、先生に『宇宙を語る』は間違っていた、新しい宇宙論を考えなければならないと言われて、共に考えた50歳です。先生は亡くなり、遺志を継いで仕上げたのがこの本です。詳細を書く余裕はないのですが、ビッグバンは「時間の始まり」であるだけでなく、「物理法則の起源」でもあるというのが基本です。絶対の法則があってそこから宇宙が生まれたのではなく、宇宙と共に法則が生まれてきた、しかもそれは生きものと同じように進化してきたというのです。「ダーウィンの進化論と宇宙論はつながっている」とあります。今私がいる宇宙ができてきた過程を見ると、生きものが存在し得る「生きものに優しい宇宙」になってきたことが分かるという話です。
著者は「ホーキングは、ニュートンの数学的厳密さとダーウィンの私たちは深い意味で一つであるという思想の橋渡しをした」と言います。ホーキングの遺灰はウエストミンスター寺院のニュートンの墓とダーウィンの墓の間に埋められたとのこと。「みんなが自分の存在を宇宙的な視点から捉え、悠久の時間にあてはめて欲しいとホーキングは願っており、これが、科学と人間性とに根ざした新しい世界観になるだろう」という最後の文は、心に響きます。「また勝手なことを」と言われそうですが、「宇宙論」は「宇宙誌」になりました。「生命誌」はまさにその中にあります。今のところ地球外文明はないのですから、私たちが地球という星を故郷とする、優しくて賢い存在として生きなければ、折角私たちを生み出してくれた宇宙に申し訳ないことになります。
「生命誌研究館」は、宇宙ともつながる「生命誌」へと一歩を進め、新しい「世界観」を示していく場になったというのが、夏の終わりの思いです。暑さの中ですが爽やかな気分です。
中村桂子 (名誉館長)
名誉館長よりご挨拶