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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2026.05.01

本来の道は、普通の暮らしがつくる道

古民家再生活動をしている方のお誘いで、高知県に行ってきました。古民家というと、茅葺き屋根で囲炉裏のある大きな家を想像します。もちろん築百五十年という茅葺きもありますが、ここでの“古”は、昭和に入ってから建てられたものを含みます。今年は昭和101年ですから、充分古いと言えるでしょう。

そこで使われている木材は、なかなか立派なものが多く、再使用しなければもったいない。木材は時が経つほどに丈夫になるのだそうです。新しい木も加えて、暮らしやすい家に建て替えると、新旧の組み合わせで風情のある家になります。

家は、誰にも思い入れがあるので、新築の家を手渡すときは、どこか文句をつけられることが多いのだけれど、再生古民家は、家族の誰もがとても良い顔になるのだそうです。そこにある歴史が気持ちよさを与えてくれるのでしょう。とくにお年寄りが、本当に嬉しそうで元気になるとも教えて下さいました。再生した家はすでに五百軒を越え、やらねばならぬ物件は、まだまだたくさんあるそうです。その土地の木を活かし、人々の歴史を大切にした活動は、21世紀の暮らしを本物にするのではないでしょうか。

山の中の段々畑に囲まれた場所にある、昭和の紅茶工場に手を入れた集会所での話し合い。農協を辞めて独自の紅茶づくりを始めたというご夫婦が、丁寧に入れて下さる香りのよい紅茶をいただきながら、とてもよい時間でした。

皆さんが、この活動を支えてくれるのは“人間は生きもの”という「生命誌」の考え方なので、これからもつながっていきたいとおっしゃって下さいました。東京で暮らしていますと、戦争がしたい人、お金が動いていればよいと思っている人ばかりが目立って、息苦しくなっています。新緑の山の麓で、植えられたばかりの早苗が可愛らしい緑の列をつくっている田んぼを見ていると、こちらの方が本物の暮らしであり、残っていくのだろうなと実感できます。「生きものである人間としての本来の道」は、日本のあちこちで心ある方たちが作っている、穏やかな道なのです。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶