1. トップ
  2. 語り合う
  3. 研究館より
  4. 細胞の中ではたらいている時計

研究館より

中村桂子のちょっと一言

2026.09.01

細胞の中ではたらいている時計

先回、自然の風が入らず残念ながら窓を閉めてエアコンを使ったと書きましたが、幸い、それは長くは続きませんでした。この一週間ほどは、東京の朝は涼しく感じます。そこで、起きたらすぐに(6時半前後)作業着に着替えて庭に出ることにしました。頭の上にお日様が来ないうちにと。夏の終わりに一度草取りを主とした庭掃除を徹底しておかないと、萩などの秋の花の見栄えがよくありませんから。草や木と向き合って話しかけたり、最近の関心である「生命情報」の問題を考えたり……誰にも縛られない自由な時間です。大きなゴミ袋がいっぱいになる頃に、ちょっと疲れたかなという感じになり、袋の中身を落ち葉だめに入れて、本日は終わり。

時計も持たず、予め働く時間を決めておくでもなく、「本日はここまで」と思ったら終わるのですが、面白いことに、いつも1時間半。5日間やったのですが、どの日も10分とはずれませんでした。自分でもちょっと驚きながら、それにしてもこの気持ちよさは何なのだろうという楽しい体験でした。

普段の仕事は、1時間の話し合いとか、30分の打ち合わせなどと予めお約束があって、時計を見ながら進めます。時に「えっ、もうこんな時間」と思う時もありますが、とにかく時計が示す時間によって動いています。コンピュータが使われるようになってからは、加速社会と言われ、すべてのことが更なる速さを求められるようになりました。時計で動く社会は、これからどうなっていくのでしょう。AI人気も、まずはその速さにありですから。

夏の朝の小さな体験から、生きものの時間で過ごすというあたりまえのことの気持ちよさを実感し、みんなで無理をするのがよいことだろうかという思いが強くなりました。体内時計の研究もかなり進んでいます。人間の場合、時計中枢は脳の視交叉上核にありますが、さまざまな臓器の細胞にも時計遺伝子があり、食事や運動などによってリズムを変化させていることも分かってきました。体全体が巧みに動いているのです。

哲学者カントの決まった時間のお散歩は有名で、時間にこだわる気難しい人とされていますが、体内時計にうまく従っていたのかもしれない、そこで考えるのが楽しかったのかも知れないなどと思えてきました。細胞誕生と共に生まれ、40億年かけてできてきたシステムの一つとしての体内時計。また戻ってきた猛暑の中で今日は時間のことを考えました。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶